2021 Fiscal Year Research-status Report
日本語教員の省察研究―「本質的な諸相への気づき」を得る活動デザイン
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21K00643
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Research Institution | Chikushi Jogakuen University |
Principal Investigator |
鴈野 恵 筑紫女学園大学, 文学部, 准教授 (60713352)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 良造 静岡大学, 国際連携推進機構, 特任准教授 (50609956)
香月 裕介 神戸学院大学, グローバル・コミュニケーション学部, 准教授 (30758785)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日本語教員養成 / 教師の省察 / 日本語教師の「態度」涵養 / リアリスティック・アプローチ / ケース・メソッド授業 / 対話 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,日本語教師の省察力涵養プログラム開発である。多様化の一途をたどる日本語教育現場では省察的実践家であることが求められる。一方で,日本語教員養成では体系的に省察指導を実施しているとはいいがたい現状がある。とはいえ,実践経験を持たない履修生に対し,どのように日本語教師としての省察力涵養を促す指導をすればよいのだろうか。そこで本研究では,6か月のケース・メソッド課題により疑似体験の場を創り出し,省察活動を提案,実践し,その特質と効果を検証する。そのうえで日本語教員養成において広く活用できる教育プログラムとしての完成を目指す。 参加学生は10名で計6回のケース・メソッド課題に取り組んだ。各ケースにつき,事前省察(作文)→対話セッションの参加(各回60分程度)→事後省察(作文)という段階であった。分析対象データは,①事前省察文,②事後省察文,③対話セッションの逐語録,④事後アンケート,⑤フォローアップインタビューの逐語録となる。ケースは,「日本語教員に求められる<態度>」(文化審議会国語文科会,2019)を基盤としたものを,新任日本語教師に聞き取った事例から作成した。ケースの内容は,新任教師が現場で直面するコンフリクト場面であった。 本研究の研究課題は以下の4点である。(1)どのようなケースが参加学生の省察を深めるか。(2)対話セッションにおいて,他者のどのような発言に影響を受けるか。(3)参加学生はどのような省察の過程をたどるか。(4)ケース・メソッド授業による省察活動は第3局面(本質的な諸相への気づき)への移行にどのように寄与するか。 4つの研究課題を明らかにするべく,データ収集は2020年度中に終えており,2021年度はデータの整理,分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目標は,日本語教師としての省察力涵養のための教育プログラムを開発し実施・評価することである。研究期間は3年間である。 省察力涵養プロセス開発の基盤とし,4つの研究課題を掲げており,第一段階(2021年度)は2つの研究課題に取り組んだ。以下に結果を示す。 (1)どのようなケースが参加学生の省察を深めるか。 分析結果:ケースの遠近が参加学生の省察の深化の決定要因であることが示された。参加学生とケースの遠近とは,本研究においては経験と背景知識の2変数で,そのうちより重要なのは背景知識のほうであるという仮説が立てられた。ここでは,ポジショニング・マップを作成し,【良くわかっている領域】,【省察の材料を持ち合わせている領域】,【未知の領域】,【無批判・無意識の領域】の4領域を図示した。日本語教師の「態度」涵養のためのケース・メソッド授業という実践に還元をすることを考えた場合,見落としがちな【無批判・無意識の領域】(当たり前と思いこみ,考えたことがないような事柄)の重要性を提言した。この領域を扱う意義は,教師の自文化の相対化に繋がることである。 (3)参加学生はどのような省察の過程をたどるか。 分析結果:実証分析で10名の参加学生のなかからAとBの2名を取り上げた。その結果,学生Aはゲシュタルトを拠り所とする省察,学生Bは意欲的に情報収集をしたことから俯瞰的視野による省察という異なる省察の質であることが見えてきた。ALACTモデルでは,情報にのみ頼る省察は,深化をもたらさないと考えられるが,学生Bは情報があることで「語りたいこと」が生まれていたことも事実であった。したがって,本研究では,情報収集の重要性も担保しながらゲシュタルトに迫る省察という,両者のバランスを考慮することが肝要であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
第二段階:令和4(2022)年度は次の残り2つの研究課題に取り組む。研究課題(2)対話セッションにおいて,他者のどのような発言に影響を受けるか。研究課題(4)ケース・メソッド授業による省察活動は第3局面(本質的な諸相への気づき)への移行にどのように寄与するか。 同時に,過去に試行したケース・メソッド授業の課題の洗い出しも行う。その際には,次の点で考察を行うことで,本省察力涵養プログラムが広く実践に耐えうるものに完成させることを目指す。 第三段階:令和5(2023)年度では,本研究の成果であるプログラム構築の一環として,教材化を目指す。多様なケースを追加することで幅を広げ,日本語教師の省察力涵養に資する教材を提案したい。 そのためには,骨組みとなる第二段階での分析結果が重要であることは言うまでもなく,第二段階の研究課題の解明を推進力をもって取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
令和4(2022)年度は当初の計画に沿って予算を使用したい。令和3(2021)年度は研究成果の国内外での発表を計画していたが,新型コロナウイルスのため,オンライン開催が主となり,予算が大幅に繰り越された。これまでに生じた繰越金については,各学会が対面開催となった場合,順次使用したいと考えている。
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