2021 Fiscal Year Research-status Report
Study on growth management and use of the Coastal Forest in the Japanese early modern period
Project/Area Number |
21K00875
|
Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
菊池 慶子 (柳谷慶子) 東北学院大学, 文学部, 教授 (00258782)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 海岸林 / クロマツ / 松葉さらい / 仙台藩 / 海岸林保護組合 / 磐城平藩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、沿岸地域の防災はもとより、多様な公益的機能を併せ持って近世から現代に受け継がれた海岸林の植林史をたどり、合わせて生育管理の実態を沿岸地域における暮らしの資源利用に視点を据えて解明しようとするものである。初年度の2021年度は、①藩政期に始まる海岸林造成の経過に関する先行研究(図書・論考)の収集、②宮城県の林務関係史料の調査と収集、③秋田藩・村上藩の関係史料の収集、④収集史料の解読とこれにもとづいた成果の公表を計画し研究を進めた。 このうち③は、コロナ感染症による移動制限から調査対象史料を変更し、明治大学博物館所蔵内藤家文書に当たり、磐城平藩の海岸林の成立と管理に関する史料を収集した。藩政期に「汐除松」の名称で植えられたクロマツ林の植栽地を特定できたこと、松苗の生産を請け負った村を見出したこと、松葉の採取の様相を確認できたことなど、本研究課題の目的に添う史料群を把握し、新たな知見を蓄積した。②は宮城県公文書館で岩沼市域を対象に近世・近代の集落による海岸林の管理と利用を知る史料を収集した。これを解読・分析して『岩沼市史・震災編』の論考にまとめることができた(2022年度刊行予定)。また岩沼市域の松葉の多様な利用法に関して住民の聞き取り調査により情報を蓄積した。 仙台湾岸域における植林の経過は大方把握できてきたが、地形・気象・政策転換を踏まえた再検討の必要性を考えるに至り、生態学の研究成果も踏まえることで「海岸林と暮らしの共生―仙台湾岸域の歴史から」(原慶太郎・菊池慶子・平吹喜彦編『自然と歴史を活かした震災復興―持続可能性とレジリエンスを高める景観再生』第6章)を執筆した。この論考では近世に集落単位で実施された生育管理を引き継ぎ近代の海岸林保護組合の活動が続いたことも明らかにできた。このほか地域ごとの植林の達成とその意義を考察し、これを講演で公開した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画した新潟、秋田の公文書館での史料収集は予定した時期に移動規制のため実施できなかったが、明治大学博物館で磐城平藩内藤家文書を探索し、当研究課題と関わる史料を収集できたことから、今後収集する史料群の目処が立ち、史料分析の観点も見出すことができた。宮城県公文書館の林務関係史料については、これまで計画的に調査し収集してきたが、全体が膨大であり、仙台湾岸域の北部海岸については未確認のまま終わった。近現代の史料群が大半であるが、藩政期の考察を行ううえで重要な情報が得られることから、全体を見渡し、次年度は作業効率があがる写真撮影の方法を考え分析を急ぎたい。 仙台湾岸域の現地調査を行うなかで、仙台市新浜地区の暮らしを知る史料として契約講の日誌の所在を知り、撮影により入手することができた。本研究では海岸林の地元集落の暮らしの復元を目的の一つとしており、次年度に解読を進めるために史料の中身を見渡す作業を行った。 海岸林の歴史に関する文献調査は国会図書館の蔵書検索、県立図書館での閲覧を中心にリストの作成を進めている。秋田・山形・新潟などで明治から昭和戦前期にかけて研究の進展が知られるが、論考や書籍の現物を確認できないものがある。これについては次年度に地元の図書館で確認作業を行う。 以上、計画した調査と史料分析はおおむね実施できており、遅延している史料収集についても次年度の着手の見通しが立っていることで、ほぼ順調な進捗状況であると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度の推進方策として、①海岸林の歴史に関する文献の収集は、文系の図書や学会誌を中心にリストアップしているが、理系の成果のなかに過去のデータをとりあげ検討しているものがあり、視野を広げて取りこぼしのないように収集する。また近代以降を検討対象とした論考に近世の史料や伝承をとりあげた成果があり、これまで収集し利用してきた関係史料と合わせて史料リストの作成も目指したい。②仙台湾岸域での現地調査は、震災からの残存林の現状を観察すること、歴史景観とその推移を確認することを目的に現場を歩いて情報を集めているが、地元の住民に協力していただき聞き取り調査を実施しており、この範囲を仙台市より北の地域に広げて情報を蓄積する。また海岸林を描いた近代の村絵図も相当数収集できてきたので、これまで検討してきた近世段階での植栽場所を精緻に描写できるように考察を進める。③日本海側の海岸林に関する藩政史料、地方史料の収集を福井・秋田で、太平洋側の同調査を静岡などで、公文書館・図書館の所蔵史料を中心に行う。自治体史史料編に収載された関係史料の探索は未確認分を県図書館、および都立中央図書館等で行う。④海岸林を管理し利用した集落の暮らしを知る史料として仙台市新浜地区で契約講の史料を入手したので、解読と分析を進め、合わせて現在に続く伝統行事の中身を聞き取り調査により確認する。⑤地元集落による海岸林の生育管理は、海岸林の多機能性や自律性を認識した住民が、自然と折り合いながら協働で、持続可能な手法を探ってきたことを想定しており、その史料解釈の妥当性を議論し再考する機会として研究報告、講演等を行い、成果を発表する。
|
Causes of Carryover |
計画していた秋田・新潟の公文書館・図書館での史料調査が出張を予定した時期にコロナ感染症の蔓延で行えず、合わせて組んでいたフィールドワークも実施できなかった。また購入予定であった自治体史が売り切れのため古本を探したが、どこにも出回っていなかった。 次年度は出張条件が整い施設の開放も進むとみられるので、予定した史料調査を実施し経費を執行できると見込んでいる。必要な書籍は引き続き古本を探索し、ない場合は複写などで入手し、合わせて新たな関係書籍を購入する。
|