2023 Fiscal Year Annual Research Report
旧社会主義国の体制転換と新自由主義の受容に関する史的研究:エストニアの事例
Project/Area Number |
21K00947
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小森 宏美 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50353454)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仙石 学 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 教授 (30289508)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新自由主義 / 「長い」体制転換期 / エストニア / 自由 / 民主主義 / 国民統合 / 移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
1989年の東欧革命を民主化ではなく「新自由主義革命」と捉え直す近年の議論の豊富化に資することという本研究の目的に照らし、最終年度にあたる本年度は、現地における最終的な史資料収集をおこなって実証研究を進めた上で、学会発表ならびに国外研究者との意見交換を行なった。 本研究の特徴は、エストニアの体制転換期を、冷戦期の1985年からポスト冷戦期にかけての「長い」体制転換期として設定し、多様な当事者にとっての「自由」や「民主主義」の内実とその変化に着目することにある。実際には、3年間の研究期間において、およそ40年にもわたる時期全体について史資料にあたることには限界があったため、①1980年代後半と②2022年以降を中心に研究を行なった。特に2022年以降を扱った理由としては、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻により、エストニアの再独立後に行われてきた政治・経済の諸改革のあり方そのものの見直しが求められていると考えるからである。そもそもエストニアは新自由主義の「成功」例と見なされることが多く、その成功は、新自由主義の浸透力の強さと歴史的・地域的文脈の関係に支えられていることが指摘されてきた。しかしながら、コロナ禍や戦争の影響がエストニアの経済成長の鈍化を招いているだけでなく、従来改革党により推進されてきた経済路線に対する批判がなされる中で、そうした成功の前提条件を見直す必要が生じている。 成果として①については、1980年代の連邦中央に対する経済改革要求と独自路線の追求が、移民問題と密接に結びつくエストニアにおいては、経済問題としてだけでなく民族問題として強く認識され、それゆえに支持されていたことが明らかになった。②については、エストニア語教育の再強化と時期的には同時に起こってる教員の処遇改善問題に国民統合の矛盾が現れていることが捉えられた。
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