2021 Fiscal Year Research-status Report
高精細X線CTスキャナ活用を中心とする古代中国の封泥の作成方法に関する総合的研究
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21K00980
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
谷 豊信 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, 客員研究員 (70171824)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮田 将寛 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 専門職 (90737503)
犬塚 将英 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 室長 (00392548)
市元 塁 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 室長 (40416558)
川村 佳男 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部企画課, 室長 (80419887)
上野 祥史 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (90332121)
高村 武幸 明治大学, 文学部, 専任教授 (90571547)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 封泥 / 高精細X線CTスキャナ / 画像処理 / 蛍光X線分析 / X線回折分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代中国では、器物を封緘するとき、器物を紐で縛り、紐を粘土でくるみ、これに印を押した。印を押した粘土が封泥である。封泥には紐の痕が残っているが、従来は表面の肉眼観察に頼っていた。本研究では、世界で始めて封泥を高精細X線スキャナで撮影し、得られた三次元データに画像処理を施して、封泥内部に残る紐の痕跡を明らかにし、封泥の作成方法と使用法の復原を試みる。あわせて非破壊的手法で成分分析を行ない、時代と地域によって粘土に違いがあるか否か、検討する。 初年度である令和3年度には、東京国立博物館所蔵封泥を高精細X線CTスキャナによって撮影し、これによって得られた三次元データのうち19個分について、本科研の経費で画像処理を行ない、封泥内部の状況を示す鮮明な画像を得ることができた。また封泥の成分を調べるため、28個について蛍光X線分析を、14個について線回折分析を行ない、基礎的なデータを得た。 CTスキャナによる撮影と画像処理により、当初目的としていた封泥内部の紐痕の三次元的配置を鮮明な画できた。これに加え、紐の形状を詳しく知ることができ、紐の材質についても推定の手がかりを得られた。また封泥内に種子が残っているものもあるなど、用いられた粘土についても新しい情報がえられた。 封泥の成分については、時代と地域を異にする封泥でも、成分に大きな差が無いことが確認できた。 新たも得られた情報を、専門を異にする分担者によって検討し、封泥の作成方法とその使用法を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
X線技術を応用した封泥研究は、中国でも行なわれていない。今回、高精細X線CTスキャナで封泥を撮影し、さらに得られた三次元データに画像処理を施すことによって、封泥内部を貫通する紐痕の鮮明な画像を得ることができた。従来、封泥表面の肉眼観察に基づいて想像するなかった封泥内部の紐痕を鮮明な画像で示すことができたのは画期的であり、文字通り世界の最先端をいく研究成果といえる。令和3年度の画像処理は19件であったが、その学術的意義は極めて高い。 当初の目的であった封泥内の紐痕の立体的配置を確認できただけでなく、紐そのものの太さや形状もかなり正確にわかり、封緘に用いられた紐について、従来の表面の肉眼観察にたよる方法とは、格段に量と精度を異にする情報が得られた。 封泥内に種子やその破片が認めれれる例があることも明らかになった。封泥は二千年前後の歳月を経ても崩れずに残っていることから、精製された粘土を用いたものと想像されてきたが、自然界から採取した粘土をほぼそのまま使用することもあったことが判明したのも大きな成果である。 また封泥の成分分析はこれまでごく僅かしか行なわれていない。今回のように、作成された時代と地域を異にする封泥を多数分析した研究はこれまでになく、その成果は国際的にも注目されるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、東京国立博物館所蔵の封泥のなかから、時代と地域を代表するものを選んで高精細X線CTスキャナによる撮影と画像処理および非破壊成分分析を続け、情報を蓄積していく。 X線画像の分析にあたっては、当初の目的であった紐痕の三次元的位置の把握に止まらず、用いられた紐の形状と材質、封泥内に残る種子などの夾雑物の分析、封泥断面の画像からの土質の推定など、新たな課題にも取り組み、必要に応じて関係分野の専門家の序言を仰ぎつつ、粘土の採取から封緘の方法まで、封泥の作成手順に関わるさまざまな問題の解明を目指す。 また令和3年度の非破壊分析の結果を見ると、封泥の成分は時代・地域を問わず、だいたい同じような傾向を示し、顕著な違いは見いだせなかった。さらに多くの資料を分析して情報を蓄積していく。 また東京国立博物館以外に所蔵される封泥も調査して視野を広め(令和5年度に予定)、最新の中国考古学の成果も勘案しつつ、封泥の作成手順の復原と封泥が古代中国文化に果たした役割を考察していく。
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Causes of Carryover |
令和3年度に外注した画像処理作業が年明けまで続き、作業に伴う諸経費を含めた外注経費の確定が年度末近くとなった。外注経費が当初予想を超える可能性も考えられたため、物品購入を一部控えたため、残額が発生した。 残額は令和4年度の画像処理数を増やすことに利用する。画像処理の成果が予想以上に大きいため、最終年度(令和5年度)に処理を予定したものの一部を前倒しで令和4年度中に実施し、報告書の充実を図るためである。
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