2021 Fiscal Year Research-status Report
フランスの教育学テキストの衛生概念に関する歴史研究
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21K02172
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
河合 務 鳥取大学, 地域学部, 教授 (10372674)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 生徒指導 / 軍隊モデル / 治療モデル / ボールドウィン / 習慣形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
西洋学校衛生論の源流のひとつであるフランスの教員養成向け教育学テキストにおける衛生概念の内実を探究するための手がかりを得るために、本年度は明治期の翻訳版学校管理法書の著者であるジョゼフ・ボールドウィン(1827-1899)の教育思想の分析を通じて19世紀末の学校罰のあり方を検討した。 ボールドウィンの教育思想にあっては①静粛、②規則正しさ、③時間厳守、④礼儀正しさ、⑤義務、という5つの「学校コード」を柱として生徒に「遵法的な習慣」を形成することが重視された。ただし、生徒自らの努力だけで「遵法的な習慣」の形成が実現できない場合、「教育的な治療法」としての学校罰の発動が想定されていた。学校罰の真の意味は苦痛を通して学ぶことに力点がおかれていたことが明らかとなった。 体罰を含めた学校罰のあり方は西洋学校衛生論の重要な一角を占めてきた。これは厳格な罰が子どもの健康を害する恐れがあるためである。しかし、ボールドウィンの場合は、学校罰によって子どもの健康を害することを懸念しながらも、生徒が苦痛を通して学ぶ「教育的な治療法」は教師の指導内容に温存されていたことを明らかにしたことも本年度の重要な研究成果のひとつである。これをひとつの手がかりとしてフランスの教育学テキストの本格的な分析に着手することが次年度以降の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の当初計画では19世紀フランスの教育学テキストを収集し、分析を進める計画であった。しかし、新型コロナウィルスによる世界的な流通網の混乱や研究施設へのアクセス制限などの影響があり、教育学テキストの収集は順調とは言えなかった。 一方で、教育学テキストを分析するための視点や枠組みとしてボールドウィンの教育思想と学校管理法書の分析は重要な成果を得ることができた。 これらを総合して研究の進捗状況について「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、19世紀の教育学テキストの収集を継続するとともに、20世紀前半の教育学テキストを収集し、かつ分析を実行していく予定である。ただ、コロナ禍に加えて、本年2月に始まったロシアの軍事侵攻によって移動や輸送の混乱・遅れにいっそう拍車がかかることが懸念される。これに対処する意味で、史料の複写や購入の発注を早めにかけることが今後の研究の推進方策として重要になると思われる。
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Causes of Carryover |
本年度の当初計画では19世紀の教育学テキストをフランス国立図書館への複写依頼と古書サイトからの購入によって収集する予定であったが、コロナ禍による輸送網の混乱などによって発注・輸送・決済の全体にわたって遅れが生じた。また、研究施設への利用・アクセス制限も重なった。 本年度に収集できなかった分については次年度分と合わせて収集する計画である。
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Research Products
(1 results)