2021 Fiscal Year Research-status Report
グローバル市民教育の批判的発展へ向けた開発教育研究
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21K02269
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Research Institution | Higashi Nippon International University |
Principal Investigator |
南雲 勇多 東日本国際大学, 経済経営学部, 准教授 (00781543)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 開発教育 / グローバル市民教育 / 国際理解教育 / ESD / 持続可能な開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度にあたる本年度は基礎研究としてグローバル市民教育と開発教育の関連を再考するため、グローバル市民教育における開発教育の既存の位置づけの確認、および開発教育におけるグローバル市民の育成に関する実践や研究の整理・分析を主な目的とした。 新型コロナウイルス感染症の影響を受け訪問調査を見合わせるなどの制限もあった中、文献調査の拡充、関係分野の実践・研究プロジェクトへの参加およびオンラインによる研究者・実践者との交流・議論の機会の確保などに切り替えて対応した。また、開発教育分野のグローバル市民教育にかかわる複数の教材について実践を通した分析を行った。加えて、本研究課題と関連するところで、開発教育のオンラインによる自主的な研究会を定期的に、またオルタナティブな実践の場を4回ほど試験的に企画・主催した。 これらをふまえ、主に2つの点から開発教育の重要性を確認した。第1に持続可能な開発(SD)との関連である。グローバル市民教育がESD(持続可能な開発/発展のための教育)やSDGs(持続可能な開発目標)との関連をもつ中、SDの実現やSDGsにみる開発問題の解決という観点からそれらの「推進のための教育」として、他方ではSDも開発論の1つであり、かつSDやSDGsが“グローバルな流れ”となりつつあるという観点から、それらを「問い直すための教育」として、開発教育の視点やその蓄積の意義が改めて浮かび上がった。 第2に参加や協力、そして地域との関連である。グローバル市民教育が問題解決へのアプローチやSDとの関係で社会づくりを志向する傾向をもつことから、参加や協力が、さらにはそれらの足場となる地域での実践が重要となるため、これまで参加型学習や地域づくりとつながってきた開発教育の意義を確認することができた。 上記の点に関し次年度になるが論文執筆を少なくとも2点行えるだけの論点の明確化を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響により訪問調査や研究方法の再検討と調整を余儀なくされたものの、文献調査およびオンラインを通した実践者・研究者との交流と議論の拡充などをはかることを通し、多様に存在するグローバル市民教育の文脈について、隣接・重複領域である国際理解教育やESDなども確認しながら、その概観をおさえ批判的検討のための基礎研究を進めることができた。その上で、これまでグローバル市民教育において開発教育がどのような位置づけや役割をもっていたのかについて明らかにし、またその意義や可能性などについて考察を進めたことなどから、概ね初年度の目標は達成することができた。 その過程で、例えば、開発教育協会の事業への実践的・研究的な参加、また、日本国際理解教育学会の研究実践委員会が進める特定課題研究プロジェクトでの共同研究に取り組む中で、本研究課題と関連づけるかたちで実践者・研究者との情報・意見交換を通し、本研究の推進に必要な知見を得る機会を重ねることができた。 しかしながら、当初計画していた英国への訪問による現地調査や研究者・実践者の直接のヒアリングと議論についてはパンデミックの影響により見合わせることとなったため、英語文献による基礎研究で補充をはかった一方、研究目的達成のためには今後、訪問調査の機会を改めて探りつつ、より積極的な実践者へのヒアリングが求められる。したがって、オンラインの活用も増やす中で、調査とその分析、そして抽出された論点に関する議論の場をさらに設けていくことが今後の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進の方針として、2年目となる2022年度は、第1に2021年度の基礎研究の成果をふまえ、次のように論文としてまとめ公表することにつとめる。まず、グローバル市民教育の中で重点課題となっている持続可能な開発やSDGsに関連して、そのあり様を問いなおすための開発教育の意義について論文をまとめる。加えて、グローバル市民教育に関する実践のよりホリスティックかつ、学校教育が中心的になりがちであるためにオルタナティブな場になりうる地域という場の意義と可能性について、開発教育と地域実践の関係から明らかにするために論考をまとめる。いずれも関連分野に論文投稿を行い、評価をはかることとする。 第2に、これまで行ってきた開発教育に関する研究会を新たな関係者に開くかたちで拡充し、公開研究会を8月以降に4回程度開催する予定である。加えて、研究協力者とともに課題についての集中討議の場を設け、より具体的な推進をはかる。特に、グローバリゼーションの「文脈の中」でそのニーズにこたえるための実践に留めず、その「文脈それ自体」を批判的・構造的に問いなおす教育の構想をはかるため、開発だけでなく教育そのものをも問い直す批判的教育学としての開発教育論を構築する試みを進めていく。 第3に、初年度は文献調査を軸として行うこととなった英国の開発教育研究について、可能な限り訪問調査の機会をうかがいつつ、オンラインを活用した現地の研究者・実践者との議論やヒアリングの場を想定するとともに、それらを補うために英国の開発教育につながりのある国内の研究者が集う研究会の開催をはかることとする。 年度末には最終年度となる2023年度に向け、基礎研究の成果をまとめたものを準備すること、そして2022年度の調査結果の分析と論点の整理を行っておくこととする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により訪問調査や研究方法の再検討と調整を余儀なくされたこと、また、そのことにより文献調査およびオンラインを通した実践者・研究者との交流と議論の拡充などをはかるかたちで対応したことをふまえ、訪問調査を次年度にずらしたことなどにより次年度使用額が生じた。 翌年度分として請求したものと合わせ、次年度に繰り越しになった助成金については、訪問調査の実施、および初年度に行った基礎研究の検討のための研究会開催および成果発表のために使用する計画である。
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Remarks |
「地域づくり」日本国際理解教育学会編『国際理解教育辞典[改訂新版]』明石書店、p.146、2022年3月 「参加・協力」日本国際理解教育学会編『国際理解教育辞典[改訂新版]』明石書店、p.147、2022年3月
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