2022 Fiscal Year Research-status Report
グローバル市民教育の批判的発展へ向けた開発教育研究
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21K02269
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Research Institution | Higashi Nippon International University |
Principal Investigator |
南雲 勇多 東日本国際大学, 経済経営学部, 准教授 (00781543)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 開発教育 / グローバル市民教育 / 国際理解教育 / ESD / 持続可能な開発 / SDGs |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は初年度のグローバル市民教育と開発教育の関連を再考するための基礎研究をもとに、主には次のような取り組みを実施することができた。初年度の基礎研究の成果を論文として発表・公開すること、研究成果を共有するためのディスカッションや研究会の開催、それらを通して関係者からのフィードバックを受けること、さらに本年度の取り組みとして日本国内において開発教育をこれまで推進してきた研究・実践に携わる関係者などへの聴き取りの実施、関連して関係機関の資料室での調査や関係者が保有する基礎資料の提供や補足説明などを受けての基礎研究の補充、そして、次年度に向けた取り組みへの連携・協議の推進などを行うことなどである。 一方で、予定していた英国への訪問調査に関しては新型コロナウイルス感染症の影響により見合わせるなどの制限もあった。その代わりとして、英国および欧州の開発教育やグローバル市民教育などの推進に中心的な役割を担ってきたロンドン大学開発教育研究センター発刊の研究論文や報告をレビューし、文献調査・収集の拡充をはかって対応した。 以上のことから主に二つの点について確認することができた。一点目は開発教育が国内で台頭した当初、その関係者が開発教育をどのように捉えていたのか、またグローバリズムに関連して開発や開発問題をどのように捉えていたのかなどの点が現在もグローバル市民教育や開発教育の重要課題として続いていること、さらにはSDGsが展開される現代により重要であると考えられることである。二点目は日本の開発教育において植民地(主義)に基づく構造や観方への批判が重要である一方でその探究が不十分であったとの指摘が関係者からあがったこと、そのことから批判的教育学やポストコロニアル批判などの視点を取り入れて展開をはかってきた英国の開発教育と関連付けた本研究の意義を改めて確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までで進んだ点として、まず初年度の基礎研究をまとめ、論文として公開することができた。一つ目の論文を通し、主題となる開発教育が開発問題の解決とともに開発を「すすめる」ことと批判的に「問う」ことという二つの側面をこれまで持ってきたことを明らかにした。また、グローバル市民教育が持続可能な開発と関連する中で、開発概念としての持続可能な開発、また開発目標としての持続可能な開発目標(SDGs)との捉え方に基づき、開発や開発目標を問い直す視点を持つ開発教育の意義を確認した。二つ目の論文で開発の推進と批判的問い直しの両方に関わる主体性や参加という点について、子どもの権利の視点もふまえつつ、それらの捉え直しについて論じた。 次に、初年度の繰り越し課題となっていた国内の関係者への聴き取りをオンラインおよび対面で実施し、分析とまとめを進めることができた。加えて、開発教育協会の資料室での調査や、研究者・実践者の協力を得て開発教育に関する(初期のものを含めた)資料を収集することができた。加えて、これらの研究成果を現場に還元するために実践者とのディスカッションの場や研究会などを持つことができた。 上記のように進んだ点がある一方で、次のように遅れが生じている。グローバル市民教育を批判的に再考し、その発展をはかるための開発教育の視点や意義を明らかにするために、日英の開発教育の比較を通し、日本の開発教育の特徴やその長所を明らかにしつつ、英国の開発教育から示唆を得ながら日本の開発教育の視点に理論的な補完を行うことを研究課題の一つとしてあげていた。しかし、英国の開発教育に関する文献・資料収集を通した基礎研究の拡充をはかって対応はしたものの、新型コロナウイルス感染症の影響などもあり、訪問調査の実施を延期していることから英国の開発教育研究という点についての調査、分析、考察の遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進については、主に二つのアプローチを関連づけながら進める。一つ目はこれまで進めてきた国内の開発教育研究をさらに推進するとともに、より具体的な論点にまとめ、その成果の公表につとめることである。この点については第一に初年度と本年度の基礎研究の成果をさらに論文化し公表すること、第二に本年度実施した聴き取りや基礎資料についての分析・考察の追加実施を進めつつ、収集した情報や整理した論点を関係者に共有できるかたちにまとめること、第三にそれらを関係する研究者・実践者とともに協働してさらに考察し深めるための場として研究会を開催すること、そしてそのディスカッションを通して新たな課題や論点を明確にしていくことをはかる。 もう一つのアプローチは日英の開発教育を関連づけた研究を進めるために英国調査を実施することである。当初計画していた英国への訪問による現地調査や研究者・実践者への直接の聴き取りとディスカッションを行う。その際、訪問調査を見合わせていた補充として行った英語文献による基礎研究やロンドン大学開発教育研究センターの文献研究で明らかにした論点や課題もあわせて現地関係者と共有し、本研究課題を深めるための意見交換などをはかることとする。 上記の二つのアプローチをふまえ、日英の開発教育研究の比較とそのことを通して日本の開発教育の意義や利点、一方で抱える課題やその克服のためのヒントを明確にしていく。そしてグローバル市民教育に関する基礎研究や、グローバル市民教育と開発教育の関係性に関する研究をふまえつつ、グローバル市民教育を批判的に発展させるための開発教育の視点について公表のためにまとめていく。
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Causes of Carryover |
2022年度は新型コロナウイルス感染症の社会的影響がおさまる流れがありつつも、昨年度に続いて英国への訪問調査や研究方法の再検討と調整が求められたこともあり、文献調査およびオンラインを通した実践者・研究者との交流と議論などによって訪問調査で進めるはずだった情報収集や関係者との議論の拡充をはかるかたちで対応した。そのため、訪問調査を次年度にずらしたことなどにより次年度使用額が生じている。 次年度については、新型コロナウイルス感染症による渡航などへの規制や社会的な見解がやわらいでくることが予想されることをふまえ、訪問調査を実施するために使用する。また、これまで進めた基礎研究や聴き取り調査と関係者との議論によって浮かび上がった論点について、その共有をはかるとともに、フィードバックを受けつつさらに検討をはかるための研究会開催および成果発表のために使用する計画である。 また、現在までの達成状況が「やや遅れている」とのことから、本研究目的・研究課題の遂行のために、本研究テーマに先進的に取り組んできた研究協力者からも助言をうけながら、研究の進捗を随時確認、検討しながら進めていくことで研究費の使用に取り組むこととする。
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Research Products
(2 results)