2021 Fiscal Year Research-status Report
複数領域融合単元に基づくキャリア教育指導力向上のための教師教育カリキュラムの開発
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21K02444
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Research Institution | Kaichi International University |
Principal Investigator |
寺本 妙子 開智国際大学, 教育学部, 教授 (20422488)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂井 俊樹 開智国際大学, 教育学部, 教授 (10186992)
冨田 俊幸 開智国際大学, 教育学部, 准教授 (70883370)
鈴木 隆弘 高千穂大学, 人間科学部, 教授 (40433685)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | キャリア教育 / 自己 / 主体 / 社会化 / 総合的な学習(探究)の時間 / 特別活動 / 公共 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に,初等中等教育におけるキャリア教育の政策動向を整理し,その鍵概念について検討した。キャリア教育は,「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育」と定義され(中教審,2011),平成29・30年改訂学習指導要領では,特別活動の内容に「一人一人のキャリア形成と自己実現」が含まれ,高等学校公民科の新設科目「公共」は,キャリア教育の中核的機能を担うとされる。更に,「主体的な学び」の定義には,「学ぶことに興味や関心を持ち,自己のキャリア形成の方向性と関連づけながら,見通しを持って粘り強く取組み,自らの学習活動を振り返って次につなげる」(中教審,2016)学びとして,キャリア形成への言及がある。このように,キャリア教育に関する内容は様々な文脈で散見されるが,その鍵概念となる「自己」「主体」が指し示す内容が不明瞭であり,「自己形成」「主体の形成」と関わるキャリア教育の全体像は分かりにくい。そこで,政策動向(OECD 2030プロジェクト,学習指導要領),および,教育哲学,心理学,社会学における主体や自己の概念を整理した枠組みを提案し,キャリア教育の実践上の課題について検討した。 第二に,教育社会学を専門とする外部講師を招聘し,学校という社会空間における「自由を行使しうる主体」の形成について理解を深め,主体の形成に関して多面的な議論を深めた。 第三に,社会と自己と学びのつながりを見出す領域横断的視点からキャリア教育を捉え,特色のある教育実践について情報を収集した。研究分担者との議論を踏まえ,高等学校総合学科における原則履修科目「産業社会と人間」,総合的な学習(探究)の時間,高校学校公民科新設科目「公共」,特別活動に着目し,教育実践という観点から情報交換を行い,研究メンバーの課題意識や研究の方向性の共有に注力した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究メンバーの専門的知見(心理学,教育学,社会科教育学,環境教育,教育方法学,総合的な学習(探究),特別活動)を共有し,キャリア教育への多面的なアプローチについて議論を進めることができた。具体的には,以下の通りである。 ①初等中等教育におけるキャリア教育に関する政策動向や教育哲学,心理学,社会学を参照し,その鍵概念となる「自己」と「主体」について整理した枠組みを提案できた。 ②教育社会学の知見から,「主体」の形成に関するより多面的な議論を深めることができた。 ③社会と自己と学びのつながりを見出す領域横断的視点からキャリア教育を捉え,特色のある教育実践(「産業社会と人間」,総合的な学習(探究),「公共」)について情報を収集することができた。 以上を通じて,研究メンバーの課題意識や研究の方向性を共有することができた。また,①と③に関して,研究論文としてまとめることができた。具体的には,「自己」と「主体」の概念整理を踏まえた,キャリア教育の教育実践上の課題についての論考,「公共」における心理学の扱いを踏まえた,「公民」における心理学の役割についての論考,および,「総合的学習(探究)の時間」における学校と地域の協働による人材育成の可能性とその基盤づくりについての論考である。②に関しては,次年度に報告する予定である。 一方で,コロナ禍の影響もあり,授業見学やインタビュー調査などは実現できなかった。しかしながら,総じて,文献や資料の収集は順調に進み,研究メンバー間の意見交換も円滑であり,今後の研究進展の基盤は十分に整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に共有された課題意識と研究の方向性に基づき,研究メンバーで分担して以下の課題に取り組む。 第一に,最新の政策動向について情報を整理して,キャリア教育の視点から分析を試み,これまでの政策としてのキャリア教育を俯瞰する見取り図の作成を目指す。これは,政策として降りてくる,一種の演繹的なアプローチであり,将来想定される社会に基づいて描かれる主体の育成と捉えられる。それとは逆の発想,すなわち,児童生徒の個から立ち上がる帰納的なアプローチにも注目する。デューイの「経験」概念や職業教育に関する論考(「オキュペーション」概念),および,その批判的論考を理論的な手掛かりに,自らの体験から立ち上がる自己の形成とあわせて,理論的な整理を試みる。 第二に,教育実践について,高等学校総合学科における原則履修科目「産業社会と人間」,総合的な学習(探究),特別活動に着目し,特色のある実践について調査する。様々な異なる文脈の実践においても通底するキャリア教育としての視点,すなわち,「社会と自己と学びのつながりを見出すという視点」を明示化し,キャリア教育の在り方について議論を深め,カリキュラム開発のための枠組みを構築する。 第三に,新設科目「公共」について教科書分析を進める。キャリア教育に関して,出版社によって特色のある内容となっているが,記載内容とその背景となる学問領域および系統性について整理し,類型化を試みる。当初の計画書に含まれる,包摂的な(インクルーシブな)視点や社会とつながる多様な人生役割(ライフ・ロール)の視点からも議論を深めたい。 以上の取組みを進め,次年度は報告書(中間報告)の作成を目指したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響もあり、研究メンバーによる研究会議や外部講師を招聘した勉強会をオンラインでおこなったことや、授業見学や調査に出向くことが困難であったことから、費用が縮減された。次年度への繰り越し分は,調査関連費用(旅費など)、書籍購入費、PC関連機器購入費などに使用する予定である。
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