2021 Fiscal Year Research-status Report
道徳の「教科内容学」構築のための倫理学的・実践的研究
Project/Area Number |
21K02475
|
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
鈴木 宏 上智大学, 総合人間科学部, 准教授 (40631891)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椋木 香子 宮崎大学, 教育学部, 教授 (00520230)
高宮 正貴 大阪体育大学, 教育学部, 准教授 (20707145)
江島 顕一 麗澤大学, 経済学部2, 准教授 (70711646)
市川 秀之 千葉大学, 教育学部, 准教授 (70733228)
荒木 寿友 立命館大学, 教職研究科, 教授 (80369610)
荊木 聡 園田学園女子大学, 人間教育学部, 准教授 (90881954)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 特別の教科 道徳 / 内容項目 / 教科内容学 / 道徳教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度の研究課題は、当初の計画通りに遂行することができた。道徳科の「内容項目」について、①個々の内容項目の解釈や記述、②内容項目の構成原理という2つの問題領域に対して、(1) 倫理学諸理論からの演繹(研究Ⅰ)、 (2)授業実践の視点からの研究(研究Ⅱ)、(3)思想史的・教育史的研究(研究Ⅲ)を行った。それぞれの研究成果は、研究協力者を交えての全体会議を年度内に4回実施して共有した。 研究Ⅰの成果として、髙宮(西洋倫理学)が、「思いやり、感謝」が義務とされる所以について、主に義務論の倫理学の知見を基に明らかにした。鈴木(カント倫理学)は、「向上心、個性の伸長」の内容項目としての妥当性について、カントによる義務の体系に依拠しながら基礎づけを行った。市川(デューイ倫理学)は、「自然愛護」を内容項目として扱う上で参照すべき動物倫理学の知見を紹介した。さらに東洋・日本思想史を専門とする研究協力者の指導を仰ぎ、「相互理解、寛容」の日本語としての成立史と中国思想における「寛容」の意味を解明し、内容項目の課題について整理を行った。 研究Ⅱの成果では、椋木(授業研究)が「遵法精神、公徳心」を扱った教材を取り上げ、一つの項目としてまとめられている遵法精神と公徳心との射程の違いを明らかにした。さらに中学校の道徳科の授業実践を担っている研究協力者に教師役を依頼し、「思いやり、感謝」「向上心、個性の伸長」を扱った授業を想定した実践を行い、教材の妥当性や授業の展開のあり方を吟味した。 研究Ⅲについては、江島(日本教育史)が、「道徳の時間」の学習指導要領の成立史とそれぞれの内容項目が成立する過程について整理を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題初年度の1年間で、道徳哲学の理論的研究では計4つの内容項目について、実践的研究では計3つの内容項目について取り上げることができた。定期的な研究会を開くことによって、最終的な研究成果としての具体的な目標を構成メンバー間で共有することができた。現状では、それぞれのメンバーが研究課題に対してどのような役割を担うかを明確化できており、目標に向けてそれぞれの研究を遂行できており、進捗状況としては大きな問題はないと考えられる。 ただし、道徳科の内容項目は中学校では合わせて20あることから、これまでの研究会の開催頻度ではすべてを網羅することは難しいため、令和4年度からはオンライン開催を含め毎月開催することとし、成果を共有することとした。これによって、本研究課題期間である今後3年間の内に全ての内容項目について取り扱い、成果を公表することができると計画している。 なお、各年度ごとの研究成果の公表方法について、現状では構成メンバー間での研究会や所属する学会での学会発表を予定しているが、感染症をめぐる昨今の事情により学会の開催が見送られた場合は、論文の公表によって行うこととする。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和3年度に実施した(1) 倫理学諸理論からの演繹(研究Ⅰ)、 (2)授業実践の視点からの研究(研究Ⅱ)、(3)思想史的・教育史的研究(研究Ⅲ)に加え、道徳教育の国際比較研究(研究Ⅳ)を取り入れながら、研究を遂行する。 道徳科の内容項目の妥当性については、これまでと同様に理論と実践の両面からそれぞれの項目について整理をし、研究会を開催して構成メンバー間で成果を共有する。道徳科の内容に関する先行研究との差別化を図るため、特に理論研究については古代ギリシア哲学、義務論、功利主義、徳倫理学、日本思想、中国思想といった多様な理論から内容項目の意義や課題を明らかにしていく。 各年度ごとの一定の研究成果は、研究会だけではなく、本研究課題の構成メンバーが共通して所属する学会(日本道徳教育学会等)で共同発表やフォーラムの形で公開する。 さらに現行の内容項目だけでは網羅できない現代的な課題が何かを明らかにし、そうした課題について、主に中学校の道徳科の授業を念頭に置き、どのように扱うことができるかを理論・実践それぞれの立場から検討する。 本研究課題の最終的な成果は、上記の研究を完遂させ、主に学校現場で道徳教育の授業を担当している教員を読者層として想定した書籍を刊行して公表する。
|
Causes of Carryover |
これまでに受領した経費のうち、旅費と人件費・謝金に関わる支出を行なわなかったため、次年度使用額が生じた。 旅費については、コロナウイルス感染症をめぐる状況により、当該年度全体で研究者間の研究会を全てオンラインで実施したこと、また、研究成果を公表する学会も同様にオンラインで開催され、必要経費が生じなかったことが理由として挙げられる。今年度については、研究会は引き続きオンラインで開催する予定であるが、学会の開催は対面実施が見込まれるため、旅費を使用する計画である。 人件費・謝金については、昨年度から本研究課題にご協力いただいている研究協力者から謝金の支払いについて辞退する申し出があったことが理由である。今年度は、新たな研究協力者を迎えて課題を遂行するため、謝金の支払いの予定があることから、翌年度分として請求を行った。
|