2022 Fiscal Year Research-status Report
近世身分制研究の成果を生かした歴史学習プログラムの開発
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21K02507
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Research Institution | Himeji University |
Principal Investigator |
和田 幸司 姫路大学, 教育学部, 教授 (40572607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山内 敏男 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (70783942)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 歴史学習 / 近世身分 / 人権学習 / 役者村 / 歌舞伎 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に把握された課題(18世紀における町人文化の発展,特に歌舞伎や人形浄瑠璃といった芸能関係のなかでも,地域社会で独自に発展した「地歌舞伎」の教材化についての基礎研究を行うこと)によって,今年度は,①17世紀後半から18・19世紀にかけて,「役者村」と呼ばれる芸能者集団の成立と発展,②その教材化に向けた検討と授業開発の有用性を明らかにした。 ①については,17世紀に三都を中心に発展した歌舞伎は,地方にも大きな影響を及ぼす点を先行研究によって確認した。そのひとつである「播州歌舞伎」の原点「高室芝居」は,18~19世紀にかけて,万歳としての公演形態をとりながらも歌舞伎上演を各地で行い,東高室村は西日本で著名な「役者村」として成長していく。この点を史料上において明らかにすることができた。 ②についてであるが,「高室芝居」の成立と発展を教材として取り上げる意義として,(A)現代社会における芸能と歴史的に見た芸能との間では差別や偏見に関わるギャップが存在し,その不当性を見出しやすいという点,(B)芸能を身近な存在として位置づけられることで,現代社会に通じる学びの意味を見出しやすいという点,(C)「高室芝居」を取り上げることは,18世紀以降の差別や偏見の具体を捉え得るという点,の3点を析出した。 さらに,人権教育の単元構想として,第1段階では芸能に対する現在と過去における状況の異同を把握し,学習対象となる「高室芝居」にかかわる内容理解を行う有効性,第2段階では差別にかかわる背景や影響の理解を深めていくことの有効性,第3段階では属性への差別にかかわって現代社会に類似していること・断絶していることは何かを問い,継続と変化を検討することの有効性を指摘することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度は,令和2年度版小学校社会科教科書,および,教師用指導書(教育出版・東京書籍・日本文教出版)における近世身分に関する記述,その授業展開の分析・検討を行い,(1)「支配-被支配」の関係理解に限定されやすいという点,(2)近世身分の成立と差別の強化の一元的理解の改善が必要である点を明らかにした。 克服すべき課題として,歴史学研究の視角からは,近世の役負担が「支配-被支配」の関係に限定されることなく,広く近世国家の身分成立要件として捉えられるべき点,身分成立と差別強化を一元的に捉えるのではなく,18世紀の転換期における社会的背景をもとに差別を把握する点の重要性を指摘した。 そこで,本年度には17世紀後半から18・19世紀にかけて,「役者村」と呼ばれる芸能者集団の成立と発展,その歴史的意義についての授業開発に取り組んだ。「役者村」の授業開発は,18世紀以降の差別や偏見の具体を捉え得るという点でその効果が期待できるばかりか,過度な一般化を回避し,「継続と変化」「継続と変化」の把握によって,差別や偏見を克服するための社会との向き合い方を議論し,子どもたちが開かれた判断を手に入れることができると考えられる。 特に,芸能を手がかりに不当に受けた差別の実際を知り,取り上げた事例の時代の文脈をふまえた理解や価値判断を行うことで差別や偏見がいかに根拠に乏しく不当であるか,同じような事象が現代における私たちの社会にも生じているのではないかという自己言及性ができる点も期待できよう。 以上、具体的な授業研究ができるように授業モデル概要を作成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては,具体的な授業研究を通して,①評価のためのルーブリックと評価問題の作成,②属性にかかわる差別の不当性に気づき、その歴史的意義や現代社会を見直すことの手掛かりとなる「学びの意味を見出す」という視点からの質の高い授業研究が必要となる。 ①では,差別の不当性に気づけているか,属性の具体としての役者村の繁栄と差別の実際を理解しているか,差別や偏見に向き合う自己と社会に関わる価値観を脱構築しているかどうかを見取るルーブリック,および評価問題の作成を行っていきたい。 ②では,属性への「差別」は,所属していること自体が差別の対象となり,人格が等閑視されることへの不当性に気づくことも重要である。本研究で取り上げた事例で言えば,役者の人格が顧みられない施策や行為を資料から読み取ることで,属性にかかわる差別の不当性に気づき,現代社会を見直すことの手掛かりとしていきたい。授業研究の段階では,さらに授業モデル分析を精緻化し,学ぶ意味を見出す授業づくりと評価を行うことで,差別や偏見を克服するための社会との向き合い方を議論し,子どもたちが開かれた判断を手に入れることができるよう研究を深めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のなかで,2段階の授業研究が困難であった。次年度は授業研究を行うための旅費,授業研究にかかわるテープ起こし費用,授業研究での分析や考察をまとめる研究冊子費用、論文投稿費用として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)