2023 Fiscal Year Research-status Report
Research on the needs for science education in learning of elder citizens and effective teaching methods: astronomy as an example
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21K02913
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
鴈野 重之 九州産業大学, 理工学部, 准教授 (20615364)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
香川 治美 九州産業大学, 建築都市工学部, 教授 (50405544)
小田部 貴子 九州産業大学, 基礎教育センター, 准教授 (80567389)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 科学教育 / 高齢者学習 / 生涯教育 / 天文教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究三年目となる今年度の研究では,高齢者の学習動機や好まれる学習分野,興味関心の持ち方などについて,調査を実施した.とくに,天文学をはじめとする理工学分野に関心を持つ学習者と,文系分野に関心を持つ学習者との間での差異に着目して調査を行った.調査のため,高齢者学習の現場にて様々な学問分野についてのレクチャーを実施し,参加者を対象としてのアンケート調査を実施した.学習領域に対する興味関心の持ち方については,比較群として大学生に対しても同様のアンケート調査を行っている. 初期結果として,「天文学」「古典文学」などのアカデミックな学習分野に対して関心を持つ層は,主に感情的価値(好きだから選ぶ)に基づいてこれらの学習分野を選ぶのに対し,「食品科学」「情報工学」のようにより日常生活に近い分野に関心を持つ層は,認知的価値(役に立つから選ぶ)に基づいて学習分野を選ぶ傾向が見られた.今後,より詳しく分析することで,高齢者がどのように学習分野に関心を持ち,その分野の学習に何を期待しているのか,そして若年層との違いがあるのかなどについて検討したい. 一方,高齢者に対しての教育環境を整えるためには,実際に高齢者教育に携わっている教育者や運営者の意見や知見を収集することも必要である.そこで今年度より,実際の高齢者教育の現場に携わってきた教育関係者に対してのインタビュー調査を行っている.この中で,高齢者教育におけるノウハウの収集や,様々な活動における共通点,差異などを明らかにすることを目指している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究開始時において,高齢者の学習ニーズにおいては,衰えへの対処や人間関係の再構築が重要であるとの認識が広く知られていた.これに対し,近年では退職後も健康な高齢者が増えている.彼らは従来考えられていた高齢者の学習ニーズとは異なるニーズを持つということが本研究において明らかにされいたが,我々は加えて,高齢者が学習分野にたいしてどのような形で興味関心を抱くのかについて研究を行ってきた.先行研究の手法を踏まえ,様々な学習分野に対して高齢学習者を高関心層と低関心層に分類し,感情的価値や認知的価値など関心の持ち方との関係を調べている.初期的結果は2024年4月現在,学術論文として投稿され,査読手続き中である. また,研究前年度,高齢者の特性にあった学習方法の調査にも着手していた.その結果,最新の視聴覚教材よりも従来から行われてきたような講義や実験が,高齢者には好まれる傾向があることがわかってきた.この結果は2024年4月現在,学術論文として投稿され,査読手続き中である. 3年目から実施している,教育関係者へのインタビュー調査を4年目でまとめることができれば,本研究で初期に計画していた調査+αの内容をカバーすることとなる.3年間で多くのデータが蓄積されており,これらを分析できれば,当初計画を超えた成果が得られるのではないかと期待している.以上を踏まえ,研究計画全体としては,おおむね順調に推移しているものと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を通して,天文学を学習するニーズは従来の高齢者学習のニーズとは異なることが示されてきた.とくに,天文学の学習ニーズは,他者とのつながりや実生活の改善などを主な学習ニーズとする従来型の高齢者学習のニーズとは対極的にあるらしいことがわかってきた.一方で,高齢者学習の身体特性は若い世代と異なっており,とくに視覚聴覚で衰えを感じている高齢者は少なくない.このような高齢者にとっては最新の精緻な視聴覚教材の利用を負担と感じる高齢学習者も存在することが示されている. これらの結果を踏まえると,成人から高齢者にかけての生涯学習のニーズや最適な学習方法は,静的なものではなく年代とともに移り変わっていく動的なものと考えるべきであろう.今後の課題として,このようなニーズや学習方法の年代ごとの変遷や,学習分野ごとのニーズの違いなどを調べていくことが興味深いテーマとして考えられる.本研究3年目では,天文学に限らず多角的な学習分野にわたって調査を行ってきた.同時に,これまではあまり顧みられてこなかった高齢者教育の実施者側への調査もスタートしている.研究最終年度には,これまでに得られたデータをまとめることで,高齢者学習支援の最適化をはかる手法を検討していきたい.
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Causes of Carryover |
当初参加を検討していた国際会議が,新型コロナウイルス感染症の影響で開催時期がずれ,2024年度の開催となった.この会議は当該分野における最大規模の国際会議であり,本研究の成果を公表する上で,重要な場になると考え,参加するための旅費として予算を残すこととした.
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