2023 Fiscal Year Research-status Report
持続可能な向社会的秩序を生み出す評判形成基盤の解明
Project/Area Number |
21K02983
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
清成 透子 青山学院大学, 社会情報学部, 教授 (60555176)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 協力 / 評判 / 互恵性 / 向社会性 |
Outline of Annual Research Achievements |
なぜヒト社会でのみ向社会性(協力性・利他性・共感性・互恵性)が大規模なレベルで維持されているのかという疑問を解明するため、これまで様々な学際的研究が行われてきた。本研究は、現在有力な理論仮説である「強い互恵性仮説」と「間接互恵性仮説」の2つに焦点を当て、評判の観点から両者の統合を試み、向社会性が適応的になる評判形成メカニズムの解明を目指している。そのため本研究では、繰り返しのある相互作用状況下において、集団成員の互いに対する評価を社会的に共有するダイナミックな評判形成パラダイムを開発し、持続可能な向社会的秩序形成における評判の社会的共有基盤の究明に取り組んでいる。本研究では、1)他者に対する評価、2)他者から自身に与えられる評価、3)評価の社会的共有(評判)の3つの側面が、繰り返しのある相互作用を行う集団状況で、利他行動の生起と維持にどのような影響を及ぼすのかを実験で明らかにすることを目指している。2023年度はようやく新型コロナウイルスによる規制がなくなったため、感染に気をつけながらも、これまで避けなくてはならなかった集団実験を再開することができた。また、これまで収集した実験データを元にした理論モデル研究を開始するための準備を開始した。23年度が本来の最終年度であったが、新型コロナウイルスによる研究の遅延に加えて、理論モデルへの拡張とモデルからの再検討を実証データで行う形で発展させるために、プロジェクト終了を一年延長することにした。理論と実証の双方から持続可能な協力行動を生み出す要因の解明を目指す予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度以降、新型コロナウイルスのパンデミックにより、集団実験を対面で実施する計画は大幅に影響を受け、対面で実施することを諦め、オンライン実験に切り替えて実施してきた。しかしながら、オンライン実験で多人数の参加者を同時にコントロールすることの困難さに加え、長時間の参加を要する実験デザインでは、匿名性を保持したまま、顔の見えない参加者の実験中の振る舞いを完全に統制することは困難であった。したがって、完全オンライン状態で収集したデータと、対面に戻してから収集したデータとの間にどの程度の齟齬が生まれるのかは実施した上で様々な点を比較検討しない限りは不明である。2023年度は対面実験に戻すための準備として、使用していたプログラムの更新作業や対面実験でのプロトコルの更新作業などを行う必要があり、その作業にそれなりの時間を費やすことになった。なお、これまで収集したデータについて、実験状況の比較作業を行った上で追加検討の目処まではつけることができ、さらに理論的な検討を行うための準備作業も併せて進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度はこれまで得られた実証データを用いて、統計モデリングによる検討を行い、そこで得られた知見に基づき実験デザインを改良した上で、再度、集団実験を実施し、追加データを収集する予定である。ただし、あまり複雑な要因を最初からモデルに組み込むと収束しないことが検討の結果明らかになったため、よりシンプルなモデルから開始し、評判の3つの側面全てを考慮するのではなく、他者に対する評価についてまずは中心的に検討する方針である。また、これまで収集したデータに関する解析、論文執筆作業も併せて行う予定である。
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Causes of Carryover |
本プロジェクトのほとんどの期間、新型コロナウイルスによる対面実験中止の影響を大きく受けた。そのため、本来予定していた対面で実施するはずの実験をオンライン型に変更した結果、その改善等に想定外の時間を費やすことになった。また、実験実施形態の差異の影響についても慎重に検討する必要があったため、実験デザインの再考可能性も含めて期間を延長した上で取り組むことにした。したがって次年度に集団実験等を実施するための予算を確保する必要が生じたため、当初使用を予定していた実験参加者用の謝礼金や補助作業者への謝礼金を次年度へ繰り越した。また、新型コロナウイルス感染による業務への影響を考慮して夏に予定していた海外出張を取りやめたため、旅費として計上できなかった金額を次年度に繰り越すことにした。
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