2021 Fiscal Year Research-status Report
Study on extremal combinatorics by approximate groups
Project/Area Number |
21K03241
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
見村 万佐人 東北大学, 理学研究科, 准教授 (10641962)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 擬準同型 / 群のコホモロジー / 群の有界コホモロジー / 極値組合せ論 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、群の近似構造の理解のため、擬準同型の研究を行なった(川﨑盛通氏(青山学院大学)、木村満晃氏(京都大学)、松下尚弘氏(琉球大学)、丸山修平氏(名古屋大学)との共同プロジェクト)。群とその正規部分群の組に対し、正規部分群上の擬準同型(実数値写像で、準同型写像であることの条件式を一様有界な加法的誤差で満たすもの)で斉次かつもとの群の共役作用で不変なものを「不変擬準同型」と呼び、その研究を推し進めることができた。大きな群の斉次準同型の正規部分群への制限は不変擬準同型となるが、そのような形でないもの(「拡張不能擬準同型」と呼ぶ)も状況によっては存在する。川﨑氏、木村氏、松下氏との共同研究で、双曲的閉曲面のシンプレクティック幾何微分同相群の単位元成分の可換な 2 元のフラックス写像での像のカップ積が消滅することを示した。この結果は可換な元の準同型での像の制約という代数的なものと解釈できるが、証明では Py 氏によって構成された双曲的閉曲面のハミルトン微分同相群上の Calabi 擬準同型とその拡張不能性を用いるものである。さらに、丸山氏を加えた 5 人の共同研究で、特定の状況で不変擬準同型たちのなすベクトル空間を群の通常のコホモロジー理論と結びつけることに成功した。擬準同型は 2 次の有界コホモロジー理論と結びつくことはよく知られているが、有界コホモロジーはしばしば連続無限次元になってしまう。通常のコホモロジー理論と結びつくことで、緩やかな仮定の下で拡張不能擬準同型たちのなす(商)ベクトル空間の有限次元性が示された。曲面群とその交換子部分群のようなケースでこの(有限次元)空間の非自明性も示せた。 より組合せ論的な研究として、徳重典英氏(琉球大学)との共同研究で、有限体上の連立方程式の非自明な解が存在しないような集合の濃度に関する新しい上界を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
擬準同型の研究は群の近似構造の理解のために進めたものであるが、これが予想外の広がりを見せシンプレクティック幾何への応用を得ることができた。さらに群のコホモロジー理論と有界コホモロジー理論を仲立ちするコホモロジー理論を用いることで一般論もできつつあり、更なる研究が期待される。特に、固定された群上の擬準同型全体の空間は往々にして消滅するか連続濃度以上の無限次元となり、「全てを分かり尽くす」ことが困難であった。しかし、今回の川﨑盛通氏(青山学院大学)、木村満晃氏(京都大学)、松下尚弘氏(琉球大学)、丸山修平氏(名古屋大学)との共同研究により、適切な意味での「拡張不能な不変擬準同型全体の空間」が有限表示群とその交換子部分群など、非常に広いクラスの群のペアで有限次元になることを示すことができた。さらに、双曲的閉曲面の基本群など、極めて自然な例でこの有限次元空間が非自明になることが判った。これらの研究により、「拡張不能不変擬準同型を分かり尽くす」というタイプの研究ができうることになる。不変擬準同型は安定混合交換子長と関係することが共同研究で分かっており、群上の不変距離の比較などへの応用も期待される。 一方で、代数的な構造でのラムゼー現象の理解に関しては、有限体の直積に関する連立方程式に関しては徳重氏との共同研究で進んだものの標数0(自由整加群、例えば、代数体の整数環など)のケースに関しては理解があまり深まっていない。
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Strategy for Future Research Activity |
不変擬準同型の研究をもとに、群上の不変概距離の粗幾何的(coarse geometric)な研究を行なうことを計画している。群とその正規部分群の組に対し、群上の安定交換子長の混合交換子群への制限と安定混合交換子長は、ともに混合交換子群上の不変概距離になる。ここで概距離とは、三角不等式を一様有界な加法的誤差で満たすものをいう。概距離は距離に 2 点が一致するときを除いて正の定数を加えることで真の距離にできる。しかし、距離に正の定数を加えることで点列の収束や関数の連続性などの小スケール的な観点に基づく性質は全く変わってしまう。他方、Gromov によって定義された漸近次元や特定の距離空間をソースやターゲットとする擬等長埋め込み可能性や粗い埋め込み(coarse embedding)可能性のような大スケール的な性質はこの操作で保たれる。群に対しその交換子部分群上で交換子長による交換子距離が定義される。これは真の距離ではあるが、その扱いは難しい。この交換子長を安定化(べき乗の交換子長をべきで割り、そのべきを増やしたときの極限を取る)したものが安定交換子長である。安定交換子長から定めるのは安定交換子概距離で、これは三角不等式を高々 1/2 の加法的誤差で満たす。既存の研究では各元の安定交換子長や安定混合交換子長に関するものが多かったが、これらを概距離空間と考え大スケール幾何的な性質を研究する、というより距離幾何的な観点の研究を行ないたい。 また、組合せ論サイドに関しては、今までの代数体の整数環で得られているラムゼー現象の結果を、より環論的な観点から新しい問題の定式化をすることを考えたい。今までの結果では、整数環を体の整基底により自由整加群だと思いラムゼー現象を定式化していた。代数体の設定で整数環の環構造にも注目したラムゼー現象の定式化による、より細やかなラムゼー現象の発見を行ないたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症により研究集会が中止・延期となったため。
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Research Products
(5 results)