2023 Fiscal Year Research-status Report
Study on extremal combinatorics by approximate groups
Project/Area Number |
21K03241
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
見村 万佐人 東北大学, 理学研究科, 准教授 (10641962)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 擬準同型 / 安定交換子長 / 粗い幾何 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和6年度の研究では、「群の実数の加法群への準同型もどき」である擬準同型と、群に安定交換子長(scl)による距離もどきを入れてできる「粗い幾何における群もどき」の間の関係を研究した。より正確には、これらを一つの群のケースだけではなく、群とその正規部分群の組に対して研究した。正規部分群がもとの群と等しいときが群を一つ取った場合に相当する。 「粗い幾何における群もどき」は粗い幾何(coarse geometry)の圏における群対象のことで、粗い群(coarse group)と呼ばれる。LeitnerとVigoloによる2024年出版のモノグラフで研究が進んでいる。群に両側不変距離を入れたものはこのような例になっている。群上の安定交換子長を距離関数とみなそうとすると、三角不等式を加法定数の誤差を除いてしか成立しないという困難がある。この困難は距離に加法定数を加える操作で解消できるが、代償に小スケール幾何が大きく変わってしまう。例えば、この操作でできる距離の作る位相は離散位相になる。他方、この操作で大スケール幾何の構造は変わらない。このようにして、安定交換子長の大スケール幾何:より緻密には、粗い群の構造の研究の動機が生まれる。 研究成果として、群とその正規部分群の組に対して、不変擬準同型の空間を不変準同型の空間で割った商空間の次元と、混合交換子部分群と安定混合交換子長から定まる粗い群の漸近次元が一致することを示した。この次元はグロモフ双曲性を弱い意味でもつ群では多く無限になるので、この粗い群は巨大なものとなる。より扱いやすいものとして、正規部分群がもとの群の交換子部分群で商群が有限生成のとき、粗い群同士の間の自然な射の粗い核(coarse kernel)を特定し、これが不変擬準同型から作られるある有限次元空間と粗い群として同型であることを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
混合交換子部分群に安定混合交換子長を入れた空間を粗い群(粗い幾何における群もどき)とみなすことで、群もどきの研究に新しい方向性を見出すことができた。一般に群とその正規部分群の組に対し、正規部分群上の不変擬準同型のなす空間は巨大(連続濃度の次元をもつ)になりがちであるが、拡張可能性に注目した商空間を作ると特定の状況でその商空間であれば有限次元性が担保される。このこと自体は過去年度の研究で得ていたが、令和6年度の研究において、部分群がもとの群の交換子部分群のときに粗い群における自然な射の粗い核がこの空間と粗い群として同型であることを示すことができた。これにより、粗い群の中でも有限次元性をもつ部分空間を捉えることができ、緻密な議論を行なえるようになることが期待される。粗い群の研究はLeitnerとVigoloによる2024年出版のモノグラフによって発展したが、現れる例が既存の群論の枠組みで捉えられるものか、ないしは、巨大なものになりがちであった。今回の研究は有限次元の非自明な粗い核の例を安定交換子長を通じて与えるもので、粗い群の今後の研究において意義深い構成となっていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度の研究では粗い群の間の射の粗い核の特定において、正規部分群がもとの群の交換子部分群であるという条件がついていた。今後の研究として、この仮定を取り除くことに取り組みたい。正規部分群がもとの群の降中心列に現れる群である場合は、交換子部分群のときの議論を組み合わせて粗いアーベル群の一般論を用いることで解決ができるのではないかと考えている。群と正規部分群と不変擬準同型の枠組みでの重要な例として、種数が2以上の向き付け可能閉曲面上の擬アノソフ性をもつ同相写像での写像トーラスの基本群と、この曲面の基本群の交換子部分群がある。この場合、この同相写像の写像類がトレリ群の元でない限り、正規部分群は写像トーラスの基本群の交換子部分群ではない。しかし、一般にこの例では正規部分群は写像トーラスの基本群の導来部分群の列に現れる群にはなっている。特に、もとの群を正規部分群で割った商群は(べき零群とは限らない)可解群となっているときに理論を拡張するのが重要だと思われる。 粗い群の研究としてもう一つ重要と思われるのが、群と正規部分群の組を2つ考え、この間の射を粗い核を用いて研究することである。このような研究の一つは令和6年度の研究で crushing theorem として得ている。そこではこの射が群の準同型写像であることを仮定していたが、粗い群の枠組みで考えているためこの準同型性を擬なものに弱めることができる。この新しい枠組みで初めて出てくる現象の発見なども行ないたい。
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Remarks |
東京大学にて数体の素元星座定理に関する集中講義を行なった。
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