2022 Fiscal Year Research-status Report
Nevanlinna theory and default functions on general spaces
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21K03299
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
厚地 淳 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00221044)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金子 宏 東京理科大学, 理学部第一部数学科, 教授 (90194919)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ネヴァンリンナ理論 / グラフ上の拡散過程 / 有理形関数 / トロピカル幾何学 / ディリクレ形式 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究では、1次元トロピカルネヴァンリンナ理論を拡張するため、グラフ上のネヴァンリンナ理論をグラフ上の拡散過程を用いて定式化した。2022年度はこの拡張されたネヴァンリンナ理論について引き続き研究を行った。1次元トロピカルネヴァンリンナ理論は、Halburd と Southall、 および Leine と Tohge によって、実数空間上の関数に対する古典的有理形関数論におけるネヴァンリンナ理論の類似として提起された。そこでは有理形関数の対応物として、区分的に線形なリプシッツ連続関数が考えられている。このような関数はトロピカル有理形関数と呼ばれる。さらにこれは、局所的に二つの凸関数の差でかける関数の特別な場合となっている。我々は、より広いクラスの関数を対象とし、関数の定義域がより一般的なグラフとなるように従来の理論を拡張することを目標とした。そのために、グラフ上の凸関数の概念を導入し、さらに、トロピカル有理形関数の対応物として、デルタ凸関数の概念を導入した。我々のネヴァンリンナ理論はこのデルタ凸関数に対するものである。 古典的ネヴァンリンナ理論では、「対数微分の補題」と呼ばれる定理が重要な役割を果たす。 Halburd と Southall はその1次元トロピカルネヴァンリンナ理論において、対数微分の補題の類似物を証明した。我々は、樹木構造を持つグラフ上のデルタ凸関数に対して、対数微分の補題の類似物を証明した。前年度までの研究では、トロピカル有理形関数に対応する関数のクラスが不明確であったために、グラフに本質的でない条件が加わるなど、不十分なところがあったが、デルタ凸関数という関数のクラスを設定することで、より明解・適切なものにすることができた。本結果は1次元トロピカルネヴァンリンナ理論の主要部を包含し、デルタ凸関数の概念は1次元の結果の拡張としても自然なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに超距離空間上のリーマン・ロッホの定理の拡張に関する成果はすでに得られており、また、当初目標としていたHalburd と Southall、 および Leine と Tohge による1次元トロピカルネヴァンリンナ理論のグラフへの拡張という本研究課題における初期の問題は、一応の完成を見た。よって、次の発展的段階に移行できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在一般空間として離散空間を考えているが、この空間の上の確率論的・関数論的解析を推し進める。22年度内にグラフのリッチ曲率に関して、Bakry-Emery型の定式化を用いて予備的考察を行った。この研究をさらに進め、トロピカルネヴァンリンナ理論の拡張に用いたグラフ上の拡散過程の保存性をはじめとする大域的挙動との関連を調べる。従来の多様体上のネヴァンリンナ理論においては定義域のリッチ曲率が大きな役割を果たすことがすでに知られており、離散空間においてもリッチ曲率に関連する性質が重要な役割を果たすと推察される。このような観点から、保存性などの確率論的性質とグラフ上の関数や離散調和写像の関数論的性質について考察する。このような研究からは、応用分野でも関心の高いグラフの多様体への調和埋め込みの可能性に関する成果が期待される。また、トロピカルネヴァンリンナ理論の考え方を拡大させ、多様体上のCarlson-Griffiths型のネヴァンリンナリ論など、従来の値分布論が離散空間などの一般空間でどのような形になるかを考察する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響により、2022年度も予定されていた研究集会等が、中止もしくはオンライン開催となり、予算に計上していた旅費を十分に使用出来なかった。2023年度は、概ね従来と同様に対面で研究集会が国内外で開催される予定であり、研究成果の発表と本研究に関する研究討論のために旅費として使用する予定である。特に、6月にボストン大学において開催されるワークショップで、本研究成果を発表する予定であり、このために旅費を使用する。
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