2022 Fiscal Year Research-status Report
「地域空間の物語性」を考慮したハザード情報表記の適切性評価に関する研究
Project/Area Number |
21K04612
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
高田 知紀 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (60707892)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 伝承 / 民話 / 発語内行為 / 発語媒介行為 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、妖怪・怪異伝承および民話について、文献調査から自然災害に関連する記述を抽出する作業を行った。妖怪・怪異伝承については『日本怪異妖怪大事典』(小松和彦監修、東京堂出版)を用いた。その結果、地震・津波13件、洪水・大雨50件、暴風24件、干ばつ4件の自然災害関連の伝承を抽出した。また、疫病についても46件の伝承を確認した。 また、モデルエリアとして和歌山県を設定し、ローカルな民話・伝承から自然災害に関連する物語を抽出した。用いた文献は『日本伝説大系第9巻』(青山泰樹・岩瀬博・保仙純剛・丸山顕徳・渡邊昭五、みずうみ書房)および『和歌山市の民話』(和歌山県民話の会編、和歌山市市長公室市民文化の課)である。その結果、地震・津波4件、洪水・大雨36件、暴風22件であった。また疫病についても5件の伝承を確認した。 以上の成果をふまえながら、本研究では災害リスクの低減に向けて「語ること」そのものの価値について理論的考察を展開した。J.L.オースティンによれば、「語ること」は「何かを行うこと」である。言語行為のもつこの側面は、災害リスクの低減に向けた様々な語りの実践の新たな意味と価値に光をあてることになる。事実としての過去の災害の経緯を語ることだけでなく、創作や伝承のなかで、実際に人びとに起こりうる、あるいは災害に対して何らかの関心を喚起するような言説は、それを語る人が決意したり、留意したり、あるいは約束するという「発語内行為」として、ただの記述や確認という意味以上に、すでに実践していることになる。またその発語行為によって、その内容が「発語媒介行為」として、他者の注意を喚起したり、あるいは行動変容を促す可能性を有している。事実的か創作的であるかに関わらず、災害リスクについて何かしらの形で語ることは、それ自体がリスクの低減に貢献する実践として位置づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
防災減災における言語行為そのものについての理論的考察に着手しており、当初の計画以上に「物語性」をふまえたハザード情報表記に関する包括的な研究が展開できている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに抽出・整理してきた自然災害に関連する神話、妖怪譚、民話について考察しながら、特に「神」と「妖怪」という超自然的な存在をふまえた防災論について、その理論的基礎と具体的方法論を含んだ体系を示す。社会発信の方法としては、一般書籍として出版することを目指す。
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Causes of Carryover |
ミーティングをオンラインで開催したため、旅費が予定より少なくなった。
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