2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K04739
|
Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
高須 登実男 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (20264129)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ヒ酸鉄 / スコロダイト / 固相変態 / 結晶化 / 非晶質 / 結晶性 / 処理特性 / 操作因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
銅製錬をはじめとして非鉄製錬では、しばしばヒ素が鉱石中に含まれており、製錬工程で分離されている。ヒ素は有害金属であり、厳しい環境規制が導入されているために大きな市場を持たず、通常は安定化して保管されている。結晶質のヒ酸鉄であるスコロダイト鉱物は安定であるためヒ素固定のための適切な化合物といえる。本研究ではスコロダイトを生成するための安定で安価な新規プロセスの開発を目指す。そのために、非晶質のヒ酸鉄を経由して気相中にて結晶化させる方法、すなわち固相変態によるスコロダイトの生成を対象として取り上げ、結晶化の挙動と生成物の性状に及ぼす各種の結晶化条件の影響を系統的に明らかにすることを目的としている。 今年度は、まず、出発原料として非晶質のヒ酸鉄を作製した。30℃に保った Fe 0.43 mol/L の硫酸鉄水溶液 350 mL にNaOH 1.7 mol/L を含む As 1.0 mol/L のヒ酸水溶液 150 mLを滴下し、300 rpm で 24 h 保持した。懸濁溶液から残渣を回収し72h乾燥させたものを非晶質ヒ酸鉄とした。次に、常温で事前に加圧成形した非晶質ヒ酸鉄試料を飽和水蒸気雰囲気で保持する結晶化実験と水添加量を変えた試料を加圧下で保持する結晶化実験を実施した。結晶化実験の保持温度を160℃、保持時間を 6 h とした。 加圧力としては事前および結晶化時ともに 195 MPa とした。加圧下で保持する結晶化実験では、0.1 g の試料に対して水添加量を 0, 6, 30 uL とした。 非晶質ヒ酸鉄は 0.1 um 程度の粒子であったが、いずれの結晶化実験でも粒子の凝集あるいは成長が見られ、1 um 以上となっていた。XRD および TG-DTA により、結晶化が進行していることが確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、非晶質ヒ酸鉄の結晶化の挙動と生成物の性状に及ぼす各種の結晶化条件の影響を系統的に明らかにすることを目的としている。 今年度の研究では、まず、研究手法の基礎の一つとなる、温度や圧力を制御して結晶化を行う装置を設計、製作した。一方、出発原料としての非晶質ヒ酸鉄を作製するための基本的な手順を策定した。また、非晶質ヒ酸鉄の結晶化実験の基本的な手順についても策定を実施した。 策定した手順に基づき特定の条件で非晶質ヒ酸鉄の作製を実施した。そして、得られた非晶質ヒ酸鉄を出発原料として、特定の条件にて試料を保持する結晶化実験を行った。特に、常温で事前に加圧成形した非晶質ヒ酸鉄試料を飽和水蒸気雰囲気で保持する結晶化実験と水添加量を変えた試料を加圧下で保持する結晶化実験を実施した。結晶化実験の保持温度160℃、保持時間 6 h の1水準とした。 結晶化実験で得られた試料について、SEM で粒度や表面形状、XRD で結晶性、TG-DTA で熱的挙動と水分の分析を行った。今回の結晶化実験の方法と条件においても結晶化が進行していることが確認されたが、実験データ数および性状調査項目数が少ないこともあり、結晶化の基本操作因子の影響までは明確になっていない。 以上の状況より、研究の進行が若干遅れている点はあるものの、着実に成果を上げつつあると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究で製作した装置と、構築した実験条件および方法を基本として、各種の操作因子が結晶化挙動に及ぼす影響を系統的に調査していく。 結晶化の基本操作因子としては、保持温度、保持圧力、時間、水の添加量、非晶質ヒ酸鉄の事前脱水、種結晶の種類と大きさおよび添加量等がある。また、非晶質のヒ酸鉄の作製方法による影響も考慮する。そのため、非晶質のヒ酸鉄の作製方法と生成されるヒ酸鉄の性状との関係についても調査する。 作製した試料の性状調査を実施する。ICP-AES で組成、XRD で結晶性、SEM で粒度や表面形状、TG-DTA で熱的挙動と水分、TEM で微細構造の分析等を行う。また、pH を変えた浸出実験を行い、結晶性と溶出性を評価する。以上の結果をとりまとめ、新規プロセスの可能性を検討し評価する。 これらの一連の系統的な実験によって、結晶化の挙動と生成物の性状に及ぼす各種の結晶化条件の影響を系統的に明らかにする。操作因子を単純に組合せた場合には膨大な量の実験条件になる。また、各実験についての評価項目も多い。そのため、逐次データをまとめ、結果を参照し予想しながら、条件と評価項目を絞って、効率的に研究を進める。得られた知見に基づいて安定で安価な新規プロセスについて検討を行う。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、装置の設計および製作と具体的な実験手順の策定に予想以上に時間を要したために、現状では今回の結晶化実験の方法と条件においても結晶化が進行していることまでは確認できたが、実験データ数および性状調査項目数が少ないこともあり、結晶化の基本操作因子の影響までは明確になっていないためである。そのため、購入を予定していた小型熱プレス機の詳細仕様の決定にあたり、他の物品費との調整も含めて再検討するのが適切だと判断されたためである。次年度の早期に実験データを取得することで、研究の目的に対して最も効果的な決定が可能となる。
|