2021 Fiscal Year Research-status Report
スピン偏極STMで探る層状反強磁性体のスピンフラストレーション
Project/Area Number |
21K04881
|
Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
川越 毅 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (20346224)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | スピン偏極STM / Cr(001)薄膜 / スピンフラストレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)これまでにCr(001)薄膜(膜厚3nm)のスピン偏極STMを用いて我々が観察した「奇数個のらせん転位によるスピンフラストレーション」の実験結果のマイクロマグネティック・シミュレーション(MMS)による検証、(2)“1.5nm厚Cr(001)薄膜作製と表面ナノ構造の評価”の2点について研究を行った。 (1)これまでに我々は、Cr(001)薄膜(膜厚3nm)において明瞭なスピン偏極STM像を観察している。観察された磁気像は、a)層状反強磁性、b)2つのらせん転移間の狭い反強磁性磁壁、c)奇数個のらせん転位を結ぶ領域でのスピンフラストレーションの3つの特徴を示す。b)とc)の結果は、両者ともにらせん転位に伴う層状反強磁性特有のスピンフラストレーションである。c)の結果はこれまで報告例がない。そこで我々はこれらの実験結果を説明するために、両者の結果をMMSと比較検証した。 2) 現有の試料成長室・STM観察室を備えた超高真空装置を用い、Au(001)清浄表面上にCr(1.5nm)をa)室温蒸着b) 室温蒸着後520K熱処理したCr(001)薄膜の低速電子線回折(LEED)とSTMを用いて表面ナノ構造の比較評価を行った。LEED像からCr(001)薄膜がAu(001)表面上にエピタキシャル成長することが分かる。両者のLEEDスポットの違いから、室温成長では島状成長し、熱処理後は原子レベルで平坦なテラス形成を示唆する。実際に両者のSTM形状像によって表面モフォロジーを確認した。熱処理温度520KのCr(001)薄膜では原子レベルで平坦なテラス幅は50 nm以上あり、なかには100 nm以上のものも観察された。すなわち室温蒸着後520 Kの熱処理によって原子レベルで平坦なテラス(テラス幅> 50 nm)を有する高品位なエピタキシャルCr(001)薄膜が形成されることが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)これまでにCr(001)薄膜(膜厚3nm)のスピン偏極STMを用いて我々が観察した“奇数個のらせん転位の集団のスピンフラストレーション”の実験結果のマイクロマグネティック・シミュレーションによる検証については、2021年以前から継続的に行っていた研究でもあるため、研究成果を論文・口頭発表の両者でまとめることができた。2022年9月に札幌で開催される表面の国際会議(IVC-22)でも口頭発表予定である。 (2)1.5nm厚Cr(001)薄膜作製と表面ナノ構造の評価”でも、3nm厚 Cr(001)薄膜とは異なる成長条件を見出した。以上の点は当初の計画していた解析や実験を行うことにより得られた成果である。 令和4年度以降はCr膜厚1.5 nm(10原子層)以下のCr(001)超薄膜に焦点をしぼり、a)高品位なCr(001)超薄膜の作成と欠陥と表面モホロジーの制御と評価b)スピン偏極STMによるCr(001)超薄膜の表面欠陥・モホロジーとナノ磁気構造との相関の実空間・ナノ領域での観察を行う。これらの実験を継続するとともに、反強磁性体特有のスピンフラストレーションや磁区・磁壁の発現機構の解明をマイクロマグネティック・シミュレーションによる磁区構造の検証も含め実験結果の解析も行う。さらに、これまで得られた研究成果をまとめ、成果発表を行うとともに、研究成果の論文投稿にも努める。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、研究代表者が長年開発・蓄積してきたスピン偏極STM/STS顕微観察法と分子線エピタキシー法による薄膜成長技術を駆使して、膜厚1.5 nm (10原子層)以下のCr(001)超薄膜を対象として、スピン偏極STM/STSによるCr(001)超薄膜の表面欠陥・モホロジーとナノ磁気構造との相関の実空間・ナノ領域までの観察~反強磁性体特有のスピンフラストレーションや磁区・磁壁の発現機構の解明を目指す。実験は、現有の試料成長室、STM観察室を備えた超高真空STM/MBE装置を用いて行う。到達真空度は試料成長・STM観察室ともに5×10-9 Pa以下の超高真空である。試料成長室には、Kセル、電子ビーム蒸着源7元素、試料加熱ステージ、低速電子線回折およびオージェ電子分光器が設置されている。STM観察室にはオミクロン社マイクロSTM、探針用電子衝撃加熱、試料搬送装置が設置されている。すなわち試料の清浄表面作製とその評価、探針の清浄化、強磁性探針作成、STM観察が室温・超高真空下で可能である。しかし、さらに低温でのSTM観察が必要になった場合は、名古屋大学で現在整備を進めている低温STMを用いて共同研究を推進する予定である。
|
Causes of Carryover |
本年度物品費としては、空冷式ドライポンプ(NeoDry -15E)1台と実験をおこなうための消耗品の購入などに使用した。実験に必須なLL室のターボ分子ポンプターボ分子ポンプ1台は昨年の学内予算で購入し、その補助ポンプとして空冷式ドライポンプを使用している。MBE室で使用しているターボ分子ポンプターボ分子ポンプの補助ポンプとして必要なダイヤフラムポンプは学内の予算をもちいて購入することができた。幸いに本年度は実験装置に大きな故障がなかったため、次年度以降に、実験を行うため物品費および旅費として使用する。
|