2022 Fiscal Year Research-status Report
イネを用いた長期栄養繁殖が成長やゲノムに及ぼす影響の解析と作物生産性向上への展開
Project/Area Number |
21K05521
|
Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
高橋 実鈴 (野坂実鈴) 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 助教 (20738091)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 栄養繁殖 / 多年生 / イネ / 低温ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は乾燥や低温による物理的ストレスや病原菌やウイルスによる生物的なストレスを受けながら成長を続けている。このようなストレス環境下で茎頂分裂組織は、葉・茎・腋芽等の地上部器官の分化を繰り返して植物の持続的な成長を支えている。茎頂分裂組織の機能は時間の経過とともに変化することはないのであろうか。本研究はイネを多年生植物のモデルとして利用し、種子由来の通常個体と栄養繁殖を繰り返した個体を比較することで、長期間、器官分化を続けた茎頂分裂組織において、茎頂分裂組織の機能が維持されているのか、あるいは時間の経過とともにその機能は変化しているのか明らかにすることを目指した。 2021年度までの研究において、育苗期に低温ストレスを受けた栄養繁殖個体では、最終的に草丈が低くなる個体が多く見られたことから、2022年度は低温ストレスが個体の成長や茎頂分裂組織にどのような影響を与えるのか調べた。その結果、低温ストレスの処理中だけでなく処理後も植物個体の成長が抑制されることがわかった。一方、低温ストレスにより成長が抑制された個体と低温ストレスを処理していない通常個体において、茎頂分裂組織の形態を比較すると、明らかな違いは見られなかった。そのため低温処理により成長が抑制された植物個体において、茎頂分裂組織の形態ではなく、機能や遺伝子発現が変化していることが考えられた。 短期的な低温処理が器官分化を繰り返している茎頂分裂組織の遺伝子発現に影響を及ぼすのか明らかにするため、育苗期に低温を処理した栄養繁殖個体と低温を処理しない通常の種子由来の個体において、茎頂分裂組織における遺伝子発現を比較した。その結果、栄養繁殖個体ではストレス応答遺伝子の発現が上昇していることが明らかになり、低温処理から数ヶ月後も遺伝子発現に影響を与えていることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
長期栄養繁殖がイネの成長に及ぼす影響の解析は、ほぼ計画通りに実施できている一方で、長期栄養繁殖がイネのゲノムに及ぼす影響の解析が遅れているため。 長期栄養繁殖がイネの成長に及ぼす影響の解析については、2022年度は栄養繁殖個体の成長が抑制された原因の探索を行った。栄養繁殖個体では生育初期に低温を処理すると最終的に成長が抑制された個体が多く見られたため、生育初期の低温処理がその後の植物の生育や茎頂分裂組織の形態や遺伝子発現に影響を及ぼすのか解析を行った。 長期栄養繁殖がイネのゲノムに及ぼす影響の解析については、2022年度は長期栄養繁殖個体と、その個体に実った種子を発芽させた通常個体のDNAメチル化程度を比較する計画であったが、解析が完了していないため2023年度での完了を目指す。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、長期栄養繁殖がイネの成長に及ぼす影響の解析については当初の計画どおり進める。栄養繁殖個体と通常個体のマイクロバイオームの違いが栄養繁殖個体の成長抑制の一因である可能性を考え、両者のマイクロバイオームの比較解析を行う。長期栄養繁殖がイネゲノムに及ぼす影響の解析については、計画の遅れを取り戻すため、長期栄養繁殖がイネゲノムのエピジェネティック修飾に及ぼす影響の解析に絞って研究を進める。
|
Causes of Carryover |
2022年度は論文の投稿を優先したため、長期栄養繁殖がイネゲノムのエピジェネティック修飾に及ぼす影響の解析を完了することができなかった。そのため論文投稿にかかる費用は当初の計画を上回った一方で、物品費については次年度使用額が生じた。当初の計画では長期栄養繁殖がイネゲノムに及ぼす影響の解析は2022年度に完了予定であったが2023年度に解析を完了するよう計画を変更する。
|
Research Products
(5 results)