2021 Fiscal Year Research-status Report
肉食性巻貝ヒメエゾボラによる在来種及び外来種の餌利用;進化トラップ仮説の検証
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21K05722
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
和田 哲 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (40325402)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 摂餌行動 / 個体群間比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
在来種が外来種に示す適応進化は「進化トラップ (外来種に対する適応が、外来種がいない環境で不利にはたらく現象)」となる危険性がある。進化トラップは、陸上生物で危険性が指摘されているが、海洋動物でも作用する可能性がある。とくに肉食性巻貝の多くの種は浮遊幼生期をもたないため、個体群ごとで特殊な適応進化が生じやすい。本研究では、肉食性巻貝ヒメエゾボラと外来種ムラサキイガイに注目して、進化トラップ仮説を検証する。 2021年度は、1980年代における餌種がおもにムラサキイガイであったことが報告されている有珠湾で、摂餌状況の調査を行い、ムラサキイガイが分布していない函館湾葛登支岬周辺の海岸における調査結果と比較した。函館湾ではヒメエゾボラが巻貝を中心に摂餌していたのに対して、有珠湾における主な餌種は二枚貝であった。また、函館湾では餌を各個体が独占して摂食していたのに対して、有珠湾では、複数個体が1個体の餌を同時に摂食する状況が高頻度で観察された。 有珠湾で摂食されていた二枚貝は、函館湾で摂食されていた二枚貝よりも大きく、複数個体が同時に摂食していた二枚貝は、そのなかでも大型の餌であった。また、有珠湾のヒメエゾボラの平均サイズは函館湾よりも大型であることなどが確認された。 有珠湾における主な餌種が、すでにムラサキイガイから他の二枚貝に変化していたことは想定外であった。しかし、摂餌生態の明瞭な個体群間変異が認められた。また、複数個体が同時に摂食する行動は、単体で生息するアサリを餌としている現状では非適応的な行動だと考えられるが、群生するムラサキイガイを餌種としていた場合に有効な摂餌戦略であると考えられる。すなわち、有珠湾のヒメエゾボラには、すでに進化トラップが作用している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
宿泊を伴う野外調査については、予定通り実施できなかった。まず、有珠湾における野外調査項目が簡略化され、また、2021-2022年度に実施する予定の忍路湾における調査を実施できなかった。しかし、有珠湾個体群が函館湾個体群とは明瞭に異なる摂餌パターンを示すことを発見できたため、忍路湾における調査項目に優先度を設けることが可能となった。また、当初の予定通り、次年度以降に実施する飼育実験における注目点も明確となった。以上の進捗状況から、全体としては「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初想定していた以下の仮説は、有珠湾ですでにイガイを摂餌していないことが明らかとなったため、検証対象外とする;「イガイは固着性二枚貝で高密度集団を形成するため、本種にとって発見しやすく捕獲しやすい。また、在来の餌種よりも大型になる。したがって、イガイを高頻度で餌とする個体群ほど、イガイがいない個体群よりも成長速度や繁殖力が高いかもしれない」。 2022年度は飼育実験によって主に以下の仮説の検証に着手する;「おもな餌が巻貝である場合と二枚貝である場合では、捕食方法(探索、捕獲、開殻)や、捕食に必要な能力 (運動能力、歯舌の形質など)が全く異なると考えられる。これらの形質には、遺伝的な個体群間変異や、表現型可塑性(発育、学習)による個体群間変異があるかもしれない」。 また、2021年度から実施している野外調査を継続して、生活史、形態、行動の個体群間比較のためのデータ収集を行う。
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Causes of Carryover |
年度内に発注し、年度内に購入予定だった洋書の入荷が大幅に遅れたたため。この洋書は2022年4月上旬に入荷したが、他の予算で支払いをすませたので、今回生じた次年度使用額は他の消耗品購入にあてることを計画している。
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Research Products
(1 results)