2023 Fiscal Year Research-status Report
肉食性巻貝ヒメエゾボラによる在来種及び外来種の餌利用;進化トラップ仮説の検証
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21K05722
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
和田 哲 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (40325402)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 摂餌行動 / 個体群間比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、函館湾葛登支岬周辺の海岸で採集したヒメエゾボラの卵塊から稚貝を孵化させて、その稚貝を(1)魚肉のみを与えて育てた群と(2)魚肉と、野外で摂餌が観察されている巻貝を与えて育てた群の2群に分けて半年間飼育した。そして、これら2群に、野外で摂餌が観察されている巻貝を与えて、摂餌行動を観察した。 その結果、(2)群の稚貝は野外で採集された稚貝と同様に摂餌したが、(1)群の稚貝は巻貝を摂餌しなかった。魚肉のみを与えた群では、巻貝を餌だと認識する機会がなく、また巻貝を捕獲する方法を学習する機会がなかったことが、今回の結果の原因かもしれない。 従来、肉食性巻貝の摂餌行動はほぼ遺伝的に決定づけられていると考えられてきた。そして局所個体群における適応進化の結果として、稚貝を共通環境で育てた場合でも、出身個体群で高頻度で摂餌されている種を選ぶことが知られていた。しかし今回の結果は、ヒメエゾボラの稚貝の摂餌行動に、その稚貝が経験してきた過去の履歴が影響を及ぼすことを示唆している。 現在、この摂餌行動における発達上の可塑性が可逆的なものか、不可逆的なものかを調べる追加実験を実施しているところである。この実験結果は本研究計画を拡充する性質をもつため、他個体群産の稚貝でも同様の飼育実験を実施する予定である。 また、本研究の成果は本種の種苗生産をおこなう際に、与える餌の少なくとも一部は放流先の環境で本種が高頻度で摂餌する餌とすべきであることも示唆しており、応用的な意義も大きいと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度の遅れを取り戻すことはできていないが、想定していなかった新たな実験結果を挙げることができたため、進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は最終年度であり、2023年度で得られた実験結果から導出された仮説を検証する実験を実施すると同時に、当初の本計画で予定されていた他の個体群における調査・実験も実施する。
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Causes of Carryover |
2022年度における実験がうまくいかなかったために、研究成果の公表(とくに英語論文の学術誌への投稿)が遅れており、次年度使用額が生じた。今年度に論文執筆を進めて、英文校閲費として使用する予定である。
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