2023 Fiscal Year Research-status Report
The returning rate and medium to long term estimation on farm business and population in nuclear disaster areas in Fukushima prefecture.
Project/Area Number |
21K05810
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
野中 章久 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (60355253)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 直売所 / 夫婦協業 / 営農再開 / 大規模水田受託 / 専業主婦化 / 農家の家族規範 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島県原発被災地における農業復興を除染作業の労働力調達からとらえることを当初の課題としたが,コロナ禍の影響で,聞き取り調査が困難となり,同時に当初調査協力者として予定された者も全て異動となり,研究の切り口を変更さぜるを得なくなった。作年より被災地における直売所の増加を研究の切り口とした。 昨年度は福島県浜通り地区では被災前には稀であった直売所が避難指示解除後に増加していることを明らかにした。 今年度は,直売所の増加の背景には,帰還農家における家族協業の変化があるとの仮説を立て,この仮説を検証するために浜通り,中通の復興を牽引する代表的な農家の聞き取り調査を実施した。調査の結果,震災前は浜通り・中通とも果樹や花き,畜産が盛んで専業農家のほとんどはこれら夫婦協業を前提とした経営であったことが明らかとなった。そして,帰還後地域の水田作業受託の中核となっている農家は,機械作業が中心となる法人組織をなっており,その労働組織は経営主(男性)と正社員(男性)の構成となっている。すなわち,夫婦協業の農業から,男性中心の農業への転換が生じており,その中で女性の就業機会として農業が機能しなくなっている状況が明らかとなった。従来浜通り地域では小規模な生産者が小口の野菜を持ち寄る直売所は稀であったのは,女性も男性と同様に専業農家として従事していたからと推測され,同様に帰還後に直売所が急増しているのは女性が専業主婦化する構造があったことが示された。中通で実施した農家調査でも同様の傾向がみられた。なお,両地域とも若い女性が夫とハウス栽培経営を展開する事例が見られた。それゆえ,当該被災地では,夫婦協業の果樹,花き,畜産経営が男性による大規模水田経営+直売所と夫婦協業のハウス栽培へと農業経営の在り方の変更が進められていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により除染労働力の側面からの分析が困難となり,時間的経過とともに当初予定していた人的な協力体制も失われた。ただし,復興の現在および今後の展望を分析する切り口として農産物の直売所の急増およびその背景にある帰還農家(専業農家)の家族協業の在り方の変化に,顕著な特徴があることが明らかとなった。この家族協業の変化は,復興プロセスとして今後女性の就業機会としての農業の側面の重要性を提起するものであり,理論的には野中(2018)で提示した被災地にも共通する東北の農家的家族規範(夫婦で家計費を「ワリカン」にする規範)が変更を強いられていることを示す。この点を明らかにすることは復興のプロセスを詳細かつ理論的に明らかにすることとなるため,社会科学研究上大きな進展となりうる。しかし,設定した課題解明という点,および時間的な経過を考えるならば,研究進捗は「遅れている」とせざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度把握した被災地の営農再開が,当該地域で一般的であった専業農家の夫婦協業を解体し,東北農業の特徴である「ワリカン」的家計費負担の家族規範の変更を強いている状況の解明を進める。これにより,当該地域の農業構造の現状及び将来予測の基礎が得られると考える。これは初期の除染労働力を軸とした復興プロセスの分析と表裏を成す農業側の復興プロセスのパースペクティブ解明となるため,この調査研究に注力する。具体的には以下の調査を実施する 1.復興の担い手となっている大規模経営の調査(震災前・後の比較による家族規範の変化の把握) 2.震災前から家族協業による施設園芸を営む農家の調査(家族協業の変化の有無) 3.新規に家族協業による施設園芸を始めた農家の調査 以上の調査により,営農再開は農家の家族規範の変化を進めるメカニズムを持っている事,また夫婦協業を復興する機運があり,これらにより野中(2018)が示した農家の在り方が分解と最高の二つのトレンドを持つことになったことを明らかにする。この調査により設定した課題を解明すると同時に,成果として公表する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により現地調査が困難な状況が続いたため。 また,課題当初に予定した調査協力者(県庁および市町村担当者,関連団体担当者)に異動が多数あり,調査の設定が仕切り直しとなったため,調査出張の回数が極めて限られたため。また,課題解明の切り口の変更(除染作業労働力から直売所)は,調査前に実施する情報収集に時間がかかることとなり,実際に調査に赴く回数が少くなることにつながった。 コロナ禍によって調査状況が変わったが,帰還・営農再開した農家において,震災前の担い手農家の就労は家族協業(夫婦協業)が標準であったものが,夫のみの専業就業に転換していることが明らかになりつつある。この点は研究進捗上大きな論点であるため,次年度は現地調査によりこれを明らかにし,研究発表を予定する。予算額はこれに充当する計画である。
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