2021 Fiscal Year Research-status Report
アルギニン製剤の給与が定時胚移植後の受胎率に及ぼす影響
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21K05902
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
平田 統一 岩手大学, 農学部, 准教授 (20241490)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 牛 / 定時胚移植 / アルギニン / 経腟採卵 / 体外受精 / 体外牛胚培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
試験1として、味の素(株)が試作したアルギニン(Arg)製剤、RP-Arg を約270g、1回給与し、給与前24時間から給与後48時間まで3時間毎に採血して血中アミノ酸濃度を測定した。その結果、3頭中2頭でRP-Arg給与後15-18時間に血中Arg濃度が最高値を示した。このことは、ホルスタイン種乾乳牛を用いた以前の試験において、給与されたRP-Argの50%が十二指腸に到達する時間は約17時間であるとした消化管通過パターンと一致した。このことは給与されたArgの一部が第一胃で分解されることなく腸管から吸収されたことを示唆した。 試験2として、RP-Arg給与が定時胚移植(tET)前後のレシピエントの妊孕性に及ぼす影響を検討した。任意の発情周期日をDay -10としてDay -3まで腟挿入プロジェステロン(P4)・エストラジオール(E2)配合剤(PRIDデルタ)を装着した後に抜去し、同時にプロスタグランジンF2α製剤(500μg)を投与した。Day -1 に性腺刺激ホルモン放出ホルモン合成剤(100μg)を投与し、Day 8 にtETを行った。給与群にはRP-Arg 100 g/日・頭をDay -10 から -1 までの10日間給与した。その結果、対照群および給与群の受胎率はそれぞれ22.2%(2/9頭)と20.0%(2/10頭)で差がなかった。また、最大卵胞径、推定黄体体積、黄体血流面積、E2、P4濃度は両群間に差はなかった。一方、Day 7のP4濃度についてDay 4のP4濃度を共変量として共分散分析を行った結果、両群間に有意(P = 0.026)な差がみられ、また、Day 4の黄体血流面積とDay 4(r = 0.69)およびDay7(r = 0.67)のP4濃度に正の相関関係がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
順調に進捗している。試験計画書において、2021~2022年に、胚移植に用いる黒毛和種胚を超音波ガイド生体内卵子吸引(OPU)-体外胚生産(IVP)法を用いて製作し、2022~2023年に、黒毛和種雌ウシ60頭を供試してArg製剤を経口投与することによる胚移植後の受胎率を検討するとしていた。2021年度に、OPU-IVP法で3頭のOPUドナーから牛胚を作出した。この牛胚を、味の素(株)が試作したアルギニン製剤、RP-Argを給与する群および給与しない対照群に分けた受胚牛に移植し、Arg給与が受胚牛の妊孕性に影響するか検討した。このことは2022年度の移植試験を一部先取りしている。また、計画した試験に加えて、RP-Arg給与前後に頻回採血を行い、血中アミノ酸濃度を測定することで、給与したアルギニンが体内に取り込まれていることを確認する試験を行ったことは、本試験の前提を明らかにする上で有効な取組であった。
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Strategy for Future Research Activity |
我々はこれまで定時授精(tAI)前にArgを給与することが雌牛の受胎率を向上させることを示してきた。すなわち、Arg投与後の排卵卵胞径や排卵後に形成される黄体長径が大きくなる傾向があること、E2、P4濃度が高くなる傾向があること、血中アンモニア濃度が減少し、尿素窒素濃度が増加すること、子宮動脈血流量が増えること、血中で増加したArgは卵胞液中に移行し卵丘細胞に取り込まれる可能性があること(第108回(2015)繁殖生物学会、第8回(2015)日本動物超音波技術研究会、第121回(2016) 、第122回(2017)、第124回(2018)日本畜産学会、第57回(2016)日本卵子学会、第66回(2016)、第68回(2018)東北畜産学会)、Arg製剤(アルファット;、あすかアニマルヘルス)を経口投与すると特に未経産牛において妊孕性向上効果が期待できること(第126回(2019)日本畜産学会)、牛卵子の体外成熟培養液に添加した場合、体外受精・培養後の胚盤胞発生率が向上することから、Argが卵子成熟、発生能の改善に直接的に寄与するだろうことを観察した(第67回(2017)、第68回(2018)東北畜産学会、第59回(2018)日本卵子学会)。ところが、2021年試験において、Arg給与は定時胚移植前後の母体の妊孕性に影響を及ぼさなかった。このことは、tAI前に給与されたArgは、発育する卵胞や/あるいは卵子の質や発育能を改善することで受胎率を向上させる可能性を示唆した。したがって、2022年度はOPUドナーに RP-Argを給与する群および給与しない対照群に分けて牛胚を体外生産し、受胚牛に移植して、OPUドナーに対するArg給与が胚発生能に影響するか検討する。
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