2022 Fiscal Year Research-status Report
牛趾乳頭腫症病変内のトレポネーマの病原性をサポートする細菌群の探索と機能解明
Project/Area Number |
21K05923
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
谷口 喬子 (岩田喬子) 宮崎大学, 産業動物防疫リサーチセンター, 研究員 (50500097)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三澤 尚明 宮崎大学, 産業動物防疫リサーチセンター, 教授 (20229678)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 乳頭腫性趾皮膚炎 / Polymicrobial Infection / Treponema phagedenis / 短鎖脂肪酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
牛の趾乳頭腫症(Papilloumatous Digital Dermatitis;以下PDD)は疼痛を伴う蹄の伝染性限局性皮膚炎である。病変内から検出されるTreponema phagedenisは難培養性で、増殖速度が極めて遅いにも拘らず最も優勢に検出されることから、本菌の増殖を促進する物質を産生する細菌の存在が示唆された。そこで本研究では、PDD病変部から分離された細菌の中から、T. phagedenisの増殖を促進する細菌の存在を明らかにし、その促進因子を検出・同定することを目的とした。 活動期であり、Treponema属菌が高濃度で存在していることが確認されているM2ステージのPDD病変部から優勢菌を分離し、PDDにおけるT. phagedenisの増殖を助ける可能性のある細菌の存在を調べた。その結果、PPD病変との関連が示唆されているPorphyromonas spp.やFusobacterium spp.が成長刺激効果を示したが、Bacteroides spp.は効果を示さなかった。最も高い増殖促進効果を示したのは、Porphyromonadaceae に属するFalsiporphyromonas endometriiであった。これら細菌の培養上清は、高速液体クロマトグラフィーを用いて短鎖脂肪酸(クエン酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸)を分析した。その結果、成長刺激効果を示す培養上清から高濃度の酪酸が検出された。市販の酪酸を培地に添加したところ、T. phagedenisの増殖が有意に促進されたことから、F. endometriiの産生する酪酸がT. phagedenisの増殖促進物質である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
F. endometrii の培養上清を用いて、T. phagedenisの成長を刺激する可能性のある因子について検出・同定を行った。培養上清の特徴を調べるために加熱処理、酵素(トリプシン、プロナーゼ)処理を行い、T. phagedenisの増殖性を比較した。F. endometiiの培養上清は,80℃または100℃で30分間加熱後、トリプシン、プリナーゼ処理後、さらに3000Daカットの超遠心フィルタで限外濾過後も、T. phagedenisに対する増殖刺激効果を維持していることが判明した。当初、増殖促進因子はタンパク質である可能性を予測し実験を進めてきたが、その可能性は低く、熱安定性のある低分子物質であることが示唆された。PDD同様、多菌感染症としてよく知られているヒトの慢性歯周病では、病変部から分離されたPorphyromonas gingivalisの増殖刺激因子がイソ酪酸などの短鎖脂肪酸であることが報告されている。そこで、T. phagedenisの成長刺激効果のある培養上清の短鎖脂肪酸を分析し、高濃度の酪酸を検出した。さらに、酪酸は、T. phagedenisの成長を単独で促進したことから、酪酸がT. phagedenisの増殖促進因子である可能性が示唆された。増殖促進因子のターゲットを、タンパク質から短鎖脂肪酸に変更して解析を進めたことにより、T. phagedenisの増殖を促進する因子を同定することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
F. endometriiの培養上清の増殖促進効果は、T. phagedenisだけに特異的なものではなく、PDDから主に分離されるいくつかの非トレポネム菌にも有効であった。PDD病変部に存在する細菌は、他の細菌の代謝副産物をエネルギー源や栄養源として利用し、互いの成長を支えているのかもしれない。今回は、活動期であり、Treponema属菌が高濃度で存在しているM2ステージのPDD病変部から優勢菌を分離し,PDDにおけるT. phagedenisの増殖を促進するの可能性のある細菌の存在を調べたが、細菌同士の代謝的な相互作用を知るためには、さまざまな病変ステージを用いて解析する必要がある。また、今回同定された増殖促進因子である酪酸は、歯周病において、炎症の誘発や組織の破壊を通じてその進行に寄与することが示唆されている。PDD病変との高い関連性が示唆されているPorphyromonas spp.やFusobacterium spp.は、よく知られた酪酸産生菌であり、これらの細菌が産生する酪酸は、T. phagedenisの増殖を促進するだけでなく、歯周病の状況と同様に蹄皮に炎症や組織破壊を誘発し、T. phagedenisが組織の奥深くまで侵入するのを助けている可能性がある。今後は、T. phagedenisの増殖だけでなく、細胞侵入に及ぼす酪酸の影響についても検討する必要がある。さらに、T. phagedenisも酪酸を産生することが報告されていることから、T. phagedenisが他の病変内の細菌へ与える影響についても検討する。
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