2021 Fiscal Year Research-status Report
チオレドキシンによるPGR5/PGRL1依存経路の制御機構とその生理的意義の解明
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21K06219
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
桶川 友季 岡山大学, 資源植物科学研究所, 助教 (10582439)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光合成 / サイクリック電子伝達 / チオレドキシン / レドックス制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
光化学系I (PSI) サイクリック電子伝達は光防御機構の誘導に重要な役割を果たす。最近私たちは、PSIサイクリック電子伝達経路の1つであるPGR5/PGRL1依存の経路がレドックスタンパク質であるチオレドキシン(Trx)によって制御されることを明らかにした。しかし制御の詳細な分子機構やその生理的意義など今後明らかにしなければならない課題は多い。そこで本研究ではPGR5/PGRL1依存経路の制御にどのような生理的意義があるかを解明することを目的に研究を進めている。 本年度はPSIサイクリック電子伝達がPSI以降の還元力(電子)分配に与える影響を調べた。葉緑体ストロマではチラコイド膜上での電子伝達反応で生じた還元力(電子)を利用して様々な代謝反応がおこなわれる。PSIサイクリック電子伝達活性が上昇したPGR5の過剰発現株ではTrx依存のカルビンサイクルの酵素の活性化が抑制されることが明らかになった。その一方で、カルビンサイクルの酵素の活性化が抑制されたNTRCタンパク質の欠損変異株(ntrc)バックグラウンドでPSIサイクリック電子伝達を欠損させると酵素の活性化は回復した。またntrc変異株で見られた生育阻害も抑制された。この結果からPGR5依存のPSIサイクリック電子伝達はカルビンサイクルの酵素の活性化に影響を与えるほど活性が大きく、効率的な光合成の誘導にはPSIサイクリック電子伝達活性は厳密に制御される必要があることが明らかになった。これらの結果は論文として報告した。 さらにTrxの変異体解析からf型Trxではなくm型Trxが特異的にPGR5依存のPSIサイクリック電子伝達の制御に関わることを明らかにした。f型Trxの変異株ではPGR5依存のPSIサイクリック電子伝達活性に影響は見られなかった。この結果も論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請書の実施計画にあげていた通り、PSIサイクリック電子伝達の制御の生理的意義解明を目的に研究を進めた。当初の予定では初年度である本年度は変異体の作製および解析・評価方法の検討など研究の基礎作りの予定であった。しかし当初の予想以上に研究の進捗が早く、結果を論文としてまとめるのに十分なデータを集めることができた。本年度はPGR5依存の経路の欠損変異株、過剰発現株を使ってPSIサイクリック電子伝達活性がストロマの代謝反応の1つである炭酸固定反応に関わる酵素の活性化に影響を与えるほど大きいことを示すことができた。この結果はin vivoにおいてPSIサイクリック電子伝達とTrxによるカルビンベンソンサイクルの酵素の活性化は還元力(電子)をめぐって競合していることを示唆した。つまりPSIサイクリック電子伝達の活性は厳密に制御される必要があることが明らかになった。以上の結果は本研究課題の目的であるPSIサイクリック電子伝達の制御の生理的意義を示す結果であり、本年度中に論文として報告することができた。最近になってPGR5タンパク質の蓄積量はPGRL1とPGRL1のホモログであるPGRL2によって安定に維持されていることが報告された。これは私たちの結果を支持する結果である。 さらに本年度は以前から作製していた多重変異株を再解析することにより新たな知見を得ることができた。Trxの変異体解析からf型TrxはPGR5依存のPSIサイクリック電子伝達経路の制御には関与しないことを明らかにした。この結果も本年度、論文として報告することができた。 以上のことから本研究課題は当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の目的として、本年度明らかにしたPSIサイクリック電子伝達の制御の生理的意義に加えてm型チオレドキシン(Trx m)によるPGRL1制御の分子機構解明をあげている。私たちはこれまでにPGR5依存のPSIサイクリック電子伝達活性は還元型のTrx mがPGRL1と複合体を形成することによって負に制御されることを明らかにした。しかしその詳細な分子機構はまだ完全にはわかっていない。そこで次年度はTrx m-PGRL1複合体形成を介したPGRL1の制御とPSIサイクリック電子伝達活性の関係を明らかにするために以下の実験をおこなう。Trx mによるPGRL1の制御にはPGRL1の123番目のシステイン(Cys)が必須である。このCysをセリン(Ser)に置換した形質転換植物(PGRL1C123S line)はTrx m-PGRL1複合体を形成せず、in vitroでのPSIサイクリック電子伝達活性測定で、Trx mによって活性が阻害されない。しかし、in vitroの測定系は定量的でないため、PGRL1のCys置換がPSIサイクリック伝達活性にどのくらい影響を与えるかわからない。そこで光合成測定装置であるDual PAMを使ってPSIサイクリック電子伝達によって形成されるプロトン駆動力をin vivoで測定する。以上の解析によってTrx m-PGRL1複合体形成がPGR5依存のPSIサイクリック電子伝達活性に与える影響を定量的に評価できると考えられる。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染拡大のため、本年度オンサイトで予定されていた学会が全てオンラインに変更され旅費の支出が必要なくなったため。 物品費…備品、消耗品の購入。 旅費…学会への参加。
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Research Products
(5 results)