2021 Fiscal Year Research-status Report
Enhancement of MALDI ion production based on designing waveform of laser electric field and high voltage pulses
Project/Area Number |
21K06521
|
Research Institution | Nigata University of Phermacy and Applied Life Sciences |
Principal Investigator |
星名 賢之助 新潟薬科大学, 薬学部, 教授 (60292827)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | MALDI / プロトン移動反応 / フェムト秒レーザー / YAGレーザー / アミノ酸 / 高電圧パルス / プロトンか化イオン / イオン再結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
MALDI-MS法におけるターゲット分子イオンは,レーザー照射後の固相から気相へ相転移する間の数10ナノ秒程度の短時間に,プロトン化マトリクスからターゲット分子へのプロトン移動により生成する.本申請は,MALDIイオン生成効率に関して,レーザーや電場を制御した系統的なデータ蓄積を目指した.2021年度は,以下の3点について結果を得た. 1.極めて時間幅の短いフェムト秒(fs)レーザーパルスを用いたMALDI測定を行い,その影響を考察した.CHCAを用いたfsレーザーMALDIスペクトルを通常のナノ秒紫外レーザーMALDIと比較すると,総イオン量は少ない傾向にあった.これは,パルス当たりのエネルギーが小さいことが反映されている.波長依存性を調べたところ,800 nmではMALDI信号の鍵となるプロトン化マトリクスがほとんど観測されないが,400 nmでは明確に観測され,MALDI過程が十分に起きていることが明らかとなった.fsレーザーMALDIでは,時間幅よりも波長による影響が大きいことが示された. 2.引出電場パルス制御の予備実験として,電場を183-517 V/mmの間で変化させながらTyr/CHCA系のMALDIスペクトルを測定した.引出電場の上昇に伴い,イオン信号量が増加し,またサンプルの信号強度の目安である信号比TyrH+/CHCAH+もほぼ単調増加することが分かった.電場により,再結合によるイオン失活を制御,抑制できることを示している. 3.引出電場のタイミングを0 ns ~ 400 nsに変化させた時,100 ns以降から信号比TyrH+/CHCAH+は単調減少した.すなわち,100 nsからは電場を印加しないと再結合によるイオン失活が優位に進むことを示唆している.すなわち,100 nsから,密度や温度などの環境変化が起きていると推察される.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は,MALDI装置の改良を第1計画としていたが,フェムト秒レーザーシステムのオシレータ用ポンプレーザーが故障するという不測の事態が生じたため,その復旧を最優先とした.直接経費のすべてをレーザー入れ替え費用に充てることにより,MALDIレーザーをフェムト秒パルスに制御した測定が可能となった.すでに調整済みのナノ秒レーザーシステムと合わせて,2022年度にダブルパルス実験によるMALDI機構制御の実験を進める準備が整った. 一方,電圧パルスの制御としては,印加時間依存性,および,電場強度依存性を調べた測定のデータ収集を行った.引き出し電場を増大させることが,イオン再結合による失活の抑制につながることが分かった.また,引き出し電場の印加のタイミングを,レーザー照射後100 ns以上遅らせると,試料イオンの相対検出量が減少することから,MALDIレーザー照射後100 nsが試料イオン生成から失活が優勢に転じる目安と考えられる.これらの知見に基づき,パルス電場のパラメータをデザインした実験の方針策定が可能となった. 以上より,計画の一部変更があったが,おおむね順調に研究経過が進んでいる.
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,前年度の結果を活かし,具体的かつ高精度なMALDI過程の制御を目的として,レーザーパルス制御と高電圧パルス制御の両面から以下の2つの研究計画を進める. (1)MALDI過程は,基本的にナノ秒レーザーにより誘起させることにする.この過程をフェムト秒レーザーでプローブする.具体的には,ナノ秒レーザー照射後に,遅延時間を置きフェムト秒レーザーを結晶の同じ領域に照射する.遅延時間を変化させながら,MALDIスペクトルを測定していくことにより,フェムト秒レーザーにより擾乱を与えられたMALDI過程の影響を,MALDIスペクトルパターンの変化より考察する.相爆発後に,分子が自由に動き始め,かつ,衝突頻度の高い高密度状態が保たれている時間帯と推察した,遅延時間100 ns前後の状況について,この仮説を検証する. (2)パルス電場による制御では,電圧を細かく変化させた実験を行い,信号強度比(試料/マトリクス剤)の変化を測定する.さらに,試料とマトリクス剤の組み合わせも変えた系統的な測定により,引き出し電場と信号強度の関係性に関する実証データを蓄積し,その傾向を信頼性を向上させる.得られたデータを再現するための,引き出し電場とイオン再結合による失活過程の関係性を記述するモデルを構築する.
|