2021 Fiscal Year Research-status Report
うっ血による肝細胞がんおよび転移性肝がん増殖機構の解明
Project/Area Number |
21K08014
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
大澤 陽介 国際医療福祉大学, 医学部, 教授 (60447787)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スフィンゴシン1リン酸 / うっ血肝 / 肝細胞がん / 血管新生 / 肝線維化 / ERK / 腸内細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
先行研究により、うっ血肝では肝がんおよび肝線維化が促進されることを明らかにした。そのメカニズムについて検討を行った。マウスの下大静脈を70%結紮 (partial IVC ligation; pIVCL)することにより慢性うっ血肝を発症するマウスを作製した。マウス肝発がんのイニシエーションに一般的に使用されるDiethylnitrosamine (DEN)を投与した後にpIVCLを施すと、すべてのマウスが発がんした。このマウスを用いてうっ血肝のスフィンゴシン1リン酸を少数例で定量すると上昇が認められていたが、2021年度に多検体で上昇が確認できた。スフィンゴシン1リン酸は種々の細胞で受容体を介して細胞増殖シグナルを活性化することが知られている。そこで、スフィンゴシン1リン酸の受容体の肝細胞特異的欠損マウスを作製し(albumin-Creマウスとスフィンゴシン1リン酸受容体1-floxマウスを掛け合わせて作製)を用いて検討したところ、肝細胞がんの発生が抑制された。さらにスフィンゴシン1リン酸の受容体の阻害剤を(Ex26)マウスに継続的に腹腔内投与したところ、同様に肝細胞がんの発生が抑制された。がん部のp-ERKを無治療群と比較すると、治療群で抑制されることから、そのメカニズムの1つとして、スフィンゴシン1リン酸によるERKの活性化シグナルが抑制されたため細胞増殖が抑制され、プロモーション作用が減弱することが関与すると考えられた。 うっ血により血管新生が促進されることを先行研究であきらかにした。腸内細菌の関与が疑われたため、16s解析による腸内細菌叢の変化を上述のpIVCLマウスを用いて検討した。しかしながら、うっ血肝を誘導しても、腸内細菌叢の変化は認められなかった。このことから、マウス側の感受性の変化が原因であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス患者様の治療に対するエフォートを増やしたため、研究のエフォートが減少した。さらに、新型コロナウイルス感染拡大のため、マウス施設の増設が延期になったことも、やや遅れた原因となった。そのような制限のあるなかで、肝細胞特異的欠損マウスの作成が予定より早くできたため、全体としては若干の遅れにとどまったと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
pIVCL後54週間後のマウスでは、少数例に肝発がんが認められた。このことからうっ血肝はプロモーションのみならずイニシエーション作用があることが示唆される。そこで、エクソームの変異をpIVCL後54週令の腫瘍部・非腫瘍部とshamマウスで比較したところ、うっ血により変異が増えることがわかった。しかしながら、ドライバー変異を同定することはできなかった。そこで、mRNA発現を比較することにより、発がんメカニズムを検討する。 2021年度は細胞単離実験が豊富にできなかった。今後、細胞単離実験を行い、より詳細な解析を施行する。 うっ血以外の肝疾患における肝線維化では、類洞内圧が上昇するため、局所的にうっ血肝と同様の刺激が種々の細胞に入るはずである。そこで、うっ血肝以外の肝障害・肝線維化症例およびマウスモデルを用いて、2021年度までにうっ血肝で明らかなにした知見を他の肝疾患で検証する。この目的ため、臨床検体を収集するための倫理申請を行い、当大学の委員会にて承認を得た。2022年度も引き続き検体の収集を行う。また、マウスモデルでは四塩化炭素投与および胆管結紮による肝障害・肝線維化モデルとDENを併用した肝細胞がんモデルを作製し、検討を行う予定。これにより、うっ血肝で認められる現象が、特異的か一般的か検討でき、一般的である場合には幅広い肝疾患の治療ターゲットの検索が可能と思われる。
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Causes of Carryover |
計画していた実験が施行できなかった。次年度以降に実験を延期したので、残額は次年度以降に使用いたします。
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