2022 Fiscal Year Research-status Report
Molecular therapy of replication-competent adenoviruses targeting characteristic gene mutations found in mesothelioma
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21K08199
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
田川 雅敏 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任教授 (20171572)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 悪性中皮腫 / p53経路 / アデノウイルス / 細胞死 / MDM2 |
Outline of Annual Research Achievements |
悪性中皮腫は予後不良で、従来の枠組みでの治療法では有効性が乏しいため、新規治療開発は喫緊の課題である。一方ゲノム解析によって、同疾患には特徴的な遺伝子変異が存在することが明らかされ、本研究ではこの変異を利用して当該治療研究を実施した。悪性中皮腫ではp53が正常型でINK4A/ARF領域の欠損しているため、p14およびp16分子発現がなく、p53経路が機能的に不活化している。そこで、増殖型でp53分子の発現を高める組換えアデノウイルス(Ad-E1B)を用いると、感染した悪性中皮腫細胞に細胞死が誘導された。このときAdの初期応答遺伝子であるE1A分子・p53分子・同分子のリン酸化発現は増強していたが、さらにp53分子のユビキチン化を担うMDM2分子の阻害剤であるnutlin-3aを併用すると、相乗的な抗腫瘍効果が得られた。併用時に上記分子の発現はさらに増加していたため、p53経路の活性化が当該相乗効果に関与していることが示唆された。そこでこれを確認するために、p53分子の発現をsi-RNAを用いてノックダウンすると、Ad-E1B単独による細胞傷害活性は維持されていたが、MDM2阻害剤併用による相乗効果は消失した。さらにp53遺伝子が変異型の細胞では、MDM2阻害剤併用による相乗効果がなかった。すなわちこのことより、p53経路の活性化がAd-E1Bによる抗腫瘍効果に寄与することが明らかになった。そこで併用効果に関与する細胞側の因子を検討するために、Adの増殖に関与する各分子を検討すると、NF1分子の発現がAd-E1Bで誘導され、さらにMDM2阻害剤との併用で増大した。このことはNF1がAdのE1A分子で誘導され、さらにp53経路の活性化によって発現上昇がみられることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自己増殖能を有するAd-E1B を悪性中皮腫細胞に感染させると、感染細胞の細胞死が誘導されるが、このとき感染細胞のp53遺伝子が野生型であっても変異型であっても、細胞傷害活性を示すIC50値には差がなかった。しかしこの時、p53分子発現の変化を検討すると、p53遺伝子が野生型の場合は同分子発現・リン酸化は亢進していた。そこで、p53経路の細胞傷害活性への関与を検討するために、p53分子ユビキチン化を阻害し同分子の発現を上昇させるMDM2阻害剤(nutlin-3a)を併用すると、combination indexが1以下となり相乗効果を誘導された。しかしp53変異型の細胞では同併用効果は検出されなかった。そこでp53分子の発現をsi-RNAでノックダウンすると、上記の相乗効果は消失し、細胞傷害活性はMDM2阻害剤を使用しなかった場合と同様であった。したがって、Ad-E1Bによる細胞傷害活性には、ウイルスの増殖による細胞傷害と、p53経路の活性化の双方が寄与することが示された。これまでのゲノム遺伝子の解析により、大部分の悪性中皮腫ではp53遺伝子が野生型のため、増殖性Adによってp53分子を誘導し、さらにp53分子の安定化と発現上昇をMDM2阻害剤等によって惹起すれば、さらなる抗腫瘍効果が期待できるはずである。この細胞傷害活性とTICD50を使用して測定したウイルス増殖能は相関していたので、p53経路の活性化によってウイルス増殖に影響を与える細胞側の因子を検討した。Adの増殖に関わる各因子の中で、NF1分子がAd-E1B感染で発現誘導され、しかもMDM2阻害剤との併用でさらに発現上昇が見られた。この結果はNF1分子の発現によってAdのE1A分子が誘導され、その結果p53分子の発現が上昇し、ウイルス増殖による細胞死が促進されたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
Ad-E1BとMDM2阻害剤の相乗効果が、p53経路の活性化に依存しているかどうかをさらに検証するために、同阻害剤であるRG7112を使用して、p53分子の発現、同分子のリン酸化、combination indexを検討する。また、MDM4分子はMDM2分子を介してp53分子のユビキチン化に関与するので、MDM4阻害剤とAd-E1Bとの併用効果を、p53経路活性化の観点から解析する。変異型p53遺伝子の場合、併用効果がなかったので、変異型p53分子であってもp53経路を活性化できるCP-31398を用いて、悪性中皮腫においてMDM2阻害剤等との併用効果を解析し、ウイルス増殖による細胞死にp53経路の活性化を追加した治療法の有用性について検証する。これまでの研究によって、p53経路活性化とNF1分子の相関が示されたので、同分子の発現をsi-RNAによってノックダウンし、同分子の相乗効果における関与を解析する。また上記併用効果について動物実験で確認を行い、同治療法の臨床的な有用性についても検討を進める。一方で、p53分子はDNA傷害で誘導されることから、ウイルス増殖による細胞傷害活性とDNA損傷との関連について解析する。Hippo経路に関連する、低分子G蛋白の一つであるRho分子、またmTOR経路の分子群、およびFAK分子の阻害剤を用いて、これら薬剤がp53経路に与える影響を検討し、悪性中皮腫における抗腫瘍効果を解析する。これらの解析を通じて、特異的な遺伝子変異を示す悪性中皮腫に対する治療法の開発にアプローチする。
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Causes of Carryover |
(理由)本年度の研究も順調に進行しており、使用したAd-E1Bが予想よりも高いタイターであったため、これまで使用していたウイルスのロットを継続して利用できており、新たに当該ベクターを作成する必要がなかった。したがってこのベクター作製に関する支出が少なくなっている。一方実験に使用した阻害剤も、これまでに購入して試薬を利用することができたため、新たに購入品を少なくすることができている。ウエスタンブロット法による発現検討をはじめウイルスタイターの測定も同様に、すでに購入済みであった試薬や測定キットを利用できており、物品費は比較的低く抑えることが可能であった。また、動物実験に使用する動物施設の維持・管理に必要な物品を支出しているが、施設は共同使用なため費用は節減できている。 (使用計画)これまで検討がやや不十分であったHippo経路の各種阻害剤をはじめ、各分子発現のノックダウン用のsi-RNAの追加購入等を予定している。このノックダウンにはp53のみならず、ウイルス増殖に関与するNF1分子も含まれる。また当該経路の各分子の機能について解析する必要があり、そのため各種リン酸化抗体の購入が必要である。またin vivo実験用のマウスの購入と飼育・維持管理に関する費用も必要である。
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Research Products
(2 results)