2021 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム異常とエピゲノム異常によるATLの協奏的クローン進化メカニズムの解明
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21K08386
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山岸 誠 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任講師 (90625261)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ゲノム / エピゲノム / HTLV-1 / ATL / クローン進化 / 遺伝子異常 / EZH2 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの解析総数として、HTLV-1キャリア、HAM、ATL、累計120症例、及び正常T細胞を対象に、RNA-seqを用いて全遺伝子発現解析を実施し、ATL細胞の基盤となる基本的性質がキャリア体内ですでに形成されていることを証明した。 感染細胞のエピゲノム異常の形成メカニズムを明らかにするために、HTLV-1 TaxのChIP-seq解析を実施した。Taxは、宿主細胞のクロマチンに結合し、クロマチン構造、ヒストン修飾パターンなどのエピジェネティックな性質をゲノムワイドに変化させることで、慢性的な遺伝子発現変化を引き起こすことを明らかにした。さらに、感染者で見られる異常なクロマチン構造は、ヒト化マウス感染モデルにおいても再現された。以上の結果から、腫瘍化に重要なエピゲノム特性が、腫瘍ウイルスの感染によって初期に形成されていることを明らかにした。 さらに、感染者から継時的に採取したPBMCを対象に、シングルセルRNA-seq/ATAC-seqを実施し、1細胞単位の統合解析を実施した。遺伝子変異、ウイルス遺伝子発現、プロウイルスを検出することで、高感度に感染細胞や悪性細胞を解析できる新たな解析プラットフォームの確立に成功した。感染細胞は長期潜伏期に多段階で遺伝子変異を獲得することで徐々に変化し、腫瘍細胞へと進化することを見出した。特に、腫瘍細胞特異的なエピゲノム異常の初期形成や、遺伝子変異によるTCR経路、NOTCH1経路などの複数のシグナル伝達経路の異常な活性化が重要性であることを明らかにした(Nat. Commun., 2021)。一方、未発症の感染者体内には、エピゲノム特性の異なる感染細胞の多様性が見られ、そのうちの一部は高悪性度細胞の特性を保持していた。また多様なエピゲノムパターンの中から、細胞増殖に関わる遺伝子などの発現を助長する特徴的な共通エピゲノム特性を見出すことにも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
臨床検体及び感染モデルを対象に複数の網羅的解析技術を駆使してデータを取得し、これらの多層データを統合することにより、世界で初めてHTLV-1感染細胞の生物学的特徴を明らかにすることに成功した。さらにATAC-seqとChIP-seqを組み合わせて用いることで、これまで困難であった微小検体からゲノム異常、エピゲノム異常の実態を明らかにし、さらに分子標的としてのEZH1/2の重要性も示した。またシングルセル解析を駆使することで、HTLV-1感染細胞から高悪性度のATL細胞へ進化する多段階発がん過程を解析することに成功し、共通するエピゲノム異常の重要性と遺伝子異常によるクローン進化メカニズムを明らかにした。本成果はNature communicationsに掲載され、当初の計画を大幅に超えて進捗した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究成果により、多段階発がん過程において、ゲノム異常とエピゲノム異常が協調してクローン進化するメカニズムが明らかになった。確立したシングルセル解析技術と解析パイプラインは、感染細胞を高感度に解析する上で非常に有用であったため、次年度以降も引き続き活用する。当初の研究目標であったゲノム異常とエピゲノム異常による協奏的なクローン進化メカニズムの実態について、想定以上の成果が得られたので、今後はこのメカニズムをさらに詳細に解析することで新たな分子標的を同定することを目指す。また初年度にHTLV-1感染モデルの樹立とシングルセルデータの取得に成功したので、HTLV-1感染によるゲノム、エピゲノム変化の全体像を掴み、さらに臨床検体データベースと統合することで、早期エピゲノム異常の重要性と分子標的として妥当性をさらに検証する。
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