2022 Fiscal Year Research-status Report
臓器間ネットワークによる膵α細胞新生機構と代謝制御の解明
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21K08581
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
奥屋 茂 山口大学, 教育・学生支援機構, 教授 (20214083)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田部 勝也 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (00397994)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 膵α細胞 / 神経ネットワーク / 交感神経系 / グルカゴン |
Outline of Annual Research Achievements |
栄養環境変化に対する膵内分泌細胞の挙動を解明するために、C57BL6/jマウスを用いて実験を行った。通常飼育食(chow)から低糖質(8% cal比, LC)・高蛋白質(70% cal比, HP)(LC/HP)に変更し10日間摂餌させたマウスでは、血糖はchow摂餌マウスと変化がないものの、血中インスリン低下、血中グルカゴン上昇および総アミノ酸量の低下を示し、膵臓において膵管近傍でのグルカゴン陽性細胞クラスター出現が観察された。クラスター構成細胞は転写因子のPax6が強発現し、MafB発現は乏しく、幼若な膵α細胞の特性を示し、細胞新生が示唆された。α細胞クラスターは交感神経分布に沿って出現しており、6-OHDAを用いて薬理学的に交感神経を遮断すると、LC/HP摂餌によるクラスター出現が抑制された。これらの事実に基づき、交感神経活性化の中枢経路について視床および視床下部、脳幹に局在する神経核群の活性化を、FosB蛋白発現に基づき免疫組織学的に解析した。その結果、延髄孤束核、最後野、淡蒼縫線核の活性化が明らかとなった。α細胞新生を惹起する肝臓-中枢神経-膵臓臓器連関を想定し、迷走神経肝臓枝切断術を施行したマウスにLC/HP食を摂餌させたところ、膵α細胞新生および肝糖新生・アミノ酸代謝亢進も抑制された。さらに、LC/HP食負荷時の栄養代謝面での変化を網羅的に検討するためメタボローム解析を試みたところ、肝グリコーゲン含量低下に続くタイミングで、糖新生系の中間代謝産物の増加を認めた。肝臓における代謝変化と膵α細胞の挙動との関連性は今後の更なる検討を要するが、蛋白質を主体とする栄養環境下において、自律神経を介した細胞新生に基づく膵α細胞量調節機構の存在が示唆され、肝臓を起点とする迷走神経求心路中枢の延髄孤束核、交感神経起始核である淡蒼縫線核を介した臓器連関経路が解明された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウスを用いた動物実験を中心に、予定された研究を適宜遂行中である。短期間のLC/HP食負荷で誘導される膵α細胞増加(新生)が、①肝臓でのグリコーゲン含量低下により引き起こされる代謝変化(アミノ酸利用・糖新生)に由来する可能性、②膵内の交感神経終末の存在部位である、膵管近傍の内分泌前駆細胞から由来する可能性、③肝臓⇒迷走神経求心路⇒延髄孤束核---淡蒼縫線核⇒交感神経遠心路を介して制御される現象である可能性、をすでに明らかにしている。
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Strategy for Future Research Activity |
短期間のLC/HP食に誘導される膵α細胞は、その局在から膵管近傍に存在する多能性分化能を有する前駆細胞から分化新生していると考えられる。新生グルカゴン陽性細胞の特徴を膵内分泌前駆細胞やα細胞分化・成熟マーカーとなる種々転写因子の発現とともに、細胞増殖能を免疫組織染色により検討を進める。メタボローム解析についても、迷走神経肝臓枝切断術施行マウスでの検討も含めて再検討する予定である。また、神経ネットワークの解析を進めるとともに、LC/HP食の急性効果における食事内容、特に高蛋白負荷の影響を確認するため、コントロール食とLC/HP食摂餌下でのマウス血中の“アミノ酸解析”も予定している。さらに、同様に低炭水化物である低炭水化物/高脂肪食(ケトン食)下での肝臓-中枢神経-膵臓臓器連関も検討する予定である。一方で、LC/HP食負荷で活性化を認めた最後野への液性因子の可能性についても検討を進める必要がある。
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも効率良く研究を遂行でき、物品・試薬購入が予定より少額となった。また、コロナ禍での移動制限や学会・研究会のWeb開催により、旅費を節約することもできた。翌年度請求額とも合わせて、分子生物学的解析費用や測定キット購入費用・消耗品費として更に効率良く使用する予定である。また、令和5年度は、成果発表や研究関連情報収集を目的とした学会への参加費としても計上している。
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