2021 Fiscal Year Research-status Report
間質細胞との相互作用で前立腺がん細胞に発現するストマチンの発現機構と腫瘍抑制作用
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21K09419
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
佐藤 朗 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (70464302)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ストマチン / 前立腺がん / アポトーシス / がん微小環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
前立腺がん悪性化の過程で、前立腺がん細胞が周囲の間質細胞と接触すると、どのようにがん細胞の振舞いが変化するのか?という点に着目し、間質細胞との細胞間接触によってがん細胞で発現が増加する遺伝子として、細胞膜裏打タンパク質をコードするStomatin(ストマチン)を同定した。これまでの研究から、ストマチンは前立腺がん細胞にアポトーシスを誘導して強い抗腫瘍活性を発揮することが判明した。本研究の目的は、ストマチンの抗腫瘍作用の分子機構ならびにその発現制御機構、さらに、ヒト前立腺がん組織でのストマチン発現の病理学的意義を検討することである。本年度の研究実績を以下に記す。 1)前立腺がん細胞間でのEphrinA5とEPHA3/7の結合により生じる細胞内シグナル伝達がストマチンの発現を抑制していること見出したが、その発現制御に一部STAT3の活性化が関与することを、JAK-STATシグナルの阻害剤を用いた実験により明らかにした。 2)これまでの研究から、ストマチンの30番目と87番目のシステインをアラニンに置換して脂質修飾を受けない変異型ストマチンが野生型と比較して強いアポトーシス誘導能を持つことが明らかにしている。そこで、ショ糖密度勾配遠心(浮遊法)を用いた細胞膜分画によって、野生型と変異型ストマチンの細胞膜上のリピッドラフトへの局在様式の違いを解析したところ、変異型ストマチンが野生型と異なりリピッドラフトに局在しないことを明らかにした。 3)32症例の前立腺がん患者由来のがん組織から抽出したRNAを用いて、ストマチンの発現量に基づいて、ストマチンの高発現群と低発現群に分けて患者予後情報の統計解析を行ったところ、ストマチン低発現群の予後が優位に低下することが明らかになった。 本年度の研究実績は、前立腺がんにおけるストマチンの分子機構及び発現機構の解明の一助になると考えられ、学術的に意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ストマチンの発現制御機構の一部が明らかになったこと、また細胞膜における野生型及び変異型ストマチンの局在様式の違いが明らかになったこと、さらにストマチンの低発現が前立腺がんの予後不良に相関があることを明らかにした点を考慮して、上記の評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
ストマチンの発現制御機構に関して、がん細胞間でのEphrinA5-EPHA3/7シグナルのシグナルの下流でJAK-STATシグナルが関与していることが明らかになったが、このシグナルを活性化させても、間質細胞との細胞間接触で上昇するストマチンの発現量を完全に模倣できていない。また、EphrinA5-EPHA3/7シグナルの抑制によって、発現上昇するストマチンをタンパク質レベルで検出出来ていない点も課題である。そのため、現在、ゲノム編集により、ストマチンのストップコドンの前に検出感度高いHiBiTタグをノックインしたがん細胞株の樹立を試みている。この細胞株を用いて、再度、ストマチンの発現上昇に関わる因子やシグナルのスクリーニングを行う予定であり、間質細胞との接触によって上昇するストマチンの発現制御機構の全貌を明らかにしたいと考えている。また、強いアポトーシス誘導活性を持つ変異型ストマチンの薬剤(ドキシサイクリン)誘導性発現細胞株の樹立にも難航している。血清中に微量に含まれるドキシサイクリン様化合物によって、変異型ストマチンの発現がリークしている可能性が考えられるため、活性炭処理した血清を用いて再度樹立を試みる予定である。さらに、変異型ストマチンに関して、リピッドラフトへの局在の違いが如何にして強いアポトーシス誘導能に結びつくのかを明らかにするために、野生型ストマチンと比較して変異型ストマチンに特異的に結合するアポトーシス関連因子の同定をタンパク質結合予測プログラム (PSOPIA)を用いて試みる。
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Causes of Carryover |
本年度は、実験で使用する細胞株の樹立が完了していなかったため、予定していた動物実験が開始できなかった。そのため、次年度に動物実験を開始するための、実験動物購入費、また動物飼育費として使用する予定である。
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[Presentation] Nor Idayu A. Rahman, 佐藤朗, 清水昭男, 米野雅大, Rasel Molla, Joanne, Ern Chi Soh, Le, Kim Chi Nguyen, 和田晃典, 河内明宏, 扇田久和2021
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