2021 Fiscal Year Research-status Report
感染症対策ともなるベーシックインカム制度の設計と社会的合意形成に向けての課題
Project/Area Number |
21K10328
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
恒松 美輪子 広島大学, 医系科学研究科(保), 講師 (80704874)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保木 紀子 広島国際大学, 看護学部, 講師 (30806328)
梯 正之 広島大学, 医系科学研究科(保), 教授 (80177344)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ベーシックインカム制度 / 感染症対策 / 社会的合意形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、統計データに基づく人口学的・財政的条件と人々の意識調査により把握される価値観・意見の分布をもとに、BI(ベーシックインカム)の実現可能性と社会的受け入れ可能性を検討・評価するものである。
初年度は、次の2点について重点的に取り組んだ。 (1)新型コロナ感染症による影響や人工知能の普及による失業と健康被害の予測:新型コロナ感染症による影響、人工知能の普及などにより、いつ頃どの分野で失業が起こり得るのか、それがどの程度の健康水準の低下につながるかを、先行研究の予測結果を加えて精査し、検討・整理した。また、次年度以降、人口統計データと業種別の就業者数などの社会経済データの両方を駆使して、人口動態モデルに基づいて2001年から2040年までの数値的な予測を行うため、必要なデータを収集・整理した。 (2)人々はBI制度を受け入れることができるかの判断:次年度に地域住民5,000人を対象にアンケート調査を実施し、BIに対する価値観・考え方の把握をもとに判断する予定である。BIに関する文献レビューをもとに調査票の草案を作成し、調査実施への準備を進めた。BI政策では、現金収入の不足を現金給付で補う形態が想定されるが、健康管理や食事の面などでは現物給付という形態も考えられ、その方が適切である可能性も考えられる。今回、生活保護受給者の健康管理支援に関する調査から得られた知見として、重要なニーズがあってもお金ですぐ買えないものについては、直接サービスを提供する(現物給付)の方が効果的かもしれないと考えられた。現物給付は、医療保険などで一部実現されている他、最近では「こども食堂」の取り組みなどで現実のものとなっているが、他の使途との競合がないため、現金給付より確実に提供できる利点がある。BI政策の中に、このような考えをどのように取り組むのが妥当か、少し検討してからアンケート調査に臨みたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)人口統計データと業種別の就業者数などの社会経済データの両方を駆使して、人口動態モデルに基づいて2001年から2040年までの数値的な予測を行うための環境が整備できた。引き続き、専門家の協力を得て、次年度以降、効率的にシミュレーションが実施できるよう環境を充実させることが課題である。
(2)BIの意識調査に関する文献は国内ではほとんどなく、欧米の文献をもとに、わが国に適用できる調査枠組と質問項目を検討したため、予定より時間を要した。当初計画では、次年度の調査に向けて質問項目等を決定する予定であったが、実施に至らなかったため、次年度の前半に調査準備、後半で意識調査を実施できるよう計画を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のとおり、初年度には、一定の成果を得ることができたので、次年度以降、次の3点を中心に研究を進めていく。
(1)効率的にシミュレーションが実施できるよう環境を充実させ、前年度に収集した既存データをもとに、新型コロナ感染症による影響や人工知能の普及による失業と健康被害を予測する。 (2)財源の検討を中心に、既存の財源の振り替えと新規の財源の創出について検討し、どの程度の給付水準のベーシックインカム制度が、どの程度の税負担で実現可能となるのか、現実の経済的な統計データに基づくシミュレーションを行い、実現可能性を明らかにする。 (3)地域住民5,000人を対象にアンケート調査を実施し、BIに対する価値観・考え方の把握をもとに判断する。その際、アンケート調査に基づく基本事項の把握から、ある程度の範囲の政策に対する価値判断が可能になり、学術的に重要な研究と位置づけられる。本人の経済状況と同時に回答を得ることで、本人の所得水準と受け入れ判断の関連性を明らかにした上で、どの水準のベーシックインカムが多数決的に受け入れ可能かを意見分布に基づくシミュレーションにより明らかにする。
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Causes of Carryover |
2022年度に地域住民を対象とする意識調査を予定しているが、当初申請した予算額が減額されていたため、予算を繰越し、調査費用に充てることにした。
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Research Products
(2 results)