2023 Fiscal Year Annual Research Report
継続的な農薬の投与は脂肪由来幹細胞のキャラクターを変化させるのか
Project/Area Number |
21K10413
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
小笠原 準悦 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (20415110)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脂肪由来幹細胞 / 細胞分化能 / 農薬 / 3T3-L1脂肪細胞 / インスリン抵抗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満を背景とした2型糖尿病の罹患者は、開発途上国を中心に増え続けているが、開発途上国には、すでに先進諸国で使用が禁止されている難分解性有機汚染物質(農薬)を使用している地域が存在する。そのため、農薬が肥満を介した2型糖尿病の誘導因子となりる可能性について検討した。 予備実験の結果として、有機塩素化合物系農薬であるヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)の投与は、成熟型3T3-L1脂肪細胞にインスリン抵抗性を引き起こすことを見出した。この状況下では、インスリン基質-1(IRS-1)のセリン307番のリン酸化を介した糖取り込み抑制作様が誘導されることが明らかとなった。加えて、マウスへの継続的な投与によって、インスリン抵抗性を惹起し、HCHの投与群では、対照群と比較して8週目までは体重が有意に低下するが、その後は体重が有意に増加することを観察した。一連の結果は、成熟型脂肪細胞のインスリン抵抗性に加えて、脂肪由来幹細胞にもキャラクター変化が生じることを示唆している。そこで最終年度は、3T3-L1の成熟型への分化過程にHCHを投与して検討したところ、対象群と比較して、HCHの添加により細胞内の中性脂肪が顕著に蓄積した成熟型3T3-L1脂肪細胞へと分化し、この状況下では、脂肪合成酵素群(FAS、ACC)のmRNAとタンパク質の発現が促されることが明らかとなった。特に、FASの転写を調節するNF-YAのmRNAとタンパク質に発現が有意に増加し、NF-YAとFASプロモーターとの結合も有意に増加することが明らかとなった。 本研究の結果から、HCHは2型糖尿病の一因である肥満化した白色脂肪細胞を生み出し、成熟型脂肪細胞に至ってはインスリン抵抗性を惹起することが示された。開発途上国で増えている2型糖尿病患者数の増加には、一部、HCHを代表とする農薬の摂取による影響も関与しているものと思われる。
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