2021 Fiscal Year Research-status Report
分子シミュレーションによる新規RNAアプタマー設計の基盤技術の構築
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21K12129
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山岸 賢司 日本大学, 工学部, 准教授 (90460021)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂本 泰一 千葉工業大学, 先進工学部, 教授 (40383369)
石川 岳志 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (80505909)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アプタマー / 分子シミュレーション / 分子動力学計算 / 核酸 / フラグメント分子軌道法 / VIINEC / NMR |
Outline of Annual Research Achievements |
RNAアプタマーは抗体に代わる次世代技術として、医薬品分野や診断薬分野などで注目されている。本研究は、申請者が蓄積してきたアプタマーに対する研究成果をもとに、RNAアプタマーが標的タンパク質をどのように認識し結合するのか、その分子認識メカニズムを計算化学手法により明らかにする。そして、アプタマー設計に、はじめて計算化学という手法を取り入れ、論理的な観点から新しいRNAアプタマーを設計する基盤技術の構築を目指すものである。 当該年度は、抗体に結合するRNAアプタマーを解析の対象とし、アプタマーを構成するヌクレオチドが、RNA型かDNA型の違いによって、標的分子である抗体との結合プロファイルにどのような違いが引き起こされるか解析し、以下の結果を得た。 まず、分子動力学計算を用いて、RNAアプタマーの構造ダイナミクスを解析した。その結果、標的分子に対する結合性が同じアプタマーでも、標的分子との結合に伴い、RNA型のアプタマーよりDNA型のアプタマーのほうが、アプタマーのダイナミクスが大きく抑制されることが明らかとなった。 次に、研究分担者の石川により開発された、フラグメント分子軌道法に基づき生体分子間の静電的相補性を視覚的および定量的に解析できるVIINEC法を用いて、アプタマーと標的分子の分子間相互作用を解析した。その結果、相互作用エネルギーはRNA型アプタマーの方が大きいが、静電的相補性はDNA型のアプタマーの方が大きいことが示された。 また、実験的な解析では、NMRを用いて塩基対部分のイミノプロトンシグナルの帰属を行い、さらに運動性についての情報を得た。RNA型およびDNA型のアプタマーのNOESYスペクトルにおいて、末端ステムの部分の21番目のU残基に由来するイミノプロトンに化学交換シグナルが観測されることから、末端ステムが閉じた構造と開いた構造があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、RNAアプタマーが標的タンパク質をどのように認識し結合するのか、その分子認識メカニズムを計算化学手法により明らかにする。そして、アプタマー設計に、はじめて計算化学という手法を取り入れ、論理的な観点から新しいRNAアプタマーを設計する基盤技術の構築を目指している。 上記の目的を達成するため当該年度では、申請書記載の研究計画のとおり、抗体に結合するRNAアプタマーに対して、アプタマー構造の動的な挙動を解析できる分子動力学計算を用い、標的分子との結合に伴うアプタマーの構造変化を分子論的に明らかとすることができた。また、量子化学計算に基づくフラグメント分子軌道計算を用いた解析では、アプタマーと標的タンパク質との分子間相互作用の解析だけでなく、アプタマーと標的タンパク質との静電的な相補性を視覚的にかつ定量化して解析することができた。さらに、構造生物学的な実験解析では、熱力学的に解析できる等温滴定型カロリメトリによるアプタマーと標的分子との相互作用の測定や高分解能NMR分光計を用いたアプタマーの結合状態についての原子レベルで解析を進めることができた。このように、計算化学および構造生物学的な実験の両面から、アプタマーが標的タンパク質をどのように認識し結合するのか、その仕組みの解明に取り組むことができた。 以上より、RNAアプタマーを論理的に設計する基盤技術の構築に必要不可欠な「アプタマーの物理化学的な特性」に関する種々の知見を、計画通り蓄積することができている。したがって、おおむね順調に進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
計算化学を用いてRNAアプタマーとタンパク質との結合力を予測する手法を確立し、論理的な観点から新しいアプタマーを設計する基盤技術を確立するため、引き続き、計算化学、構造生物学的な実験の両面から以下の研究に取り組む。 まず、分子動力学計算を用いて、RNAアプタマーの動的な構造変化を解析する。新しいアプタマーを論理的に分子設計するためには、アプタマーの配列の違いやアプタマーに対する化学修飾が、アプタマーの立体構造にどのような影響を与えるか、網羅的な解析を進めることが必要不可欠である。今後、修飾や配列の異なる様々なアプタマーに対してこれまでと同様の解析を進めていく。さらに、抗体に結合するアプタマー以外に研究の対象を広げ、その知見を蓄積していく予定である。 また、構造生物学的な実験では現在、NMRを用いてイミノプロトンシグナルの水との交換速度の解析および緩和速度の解析を行っており、今後、RNA型およびDNA型のアプタマーの構造の揺らぎの違いについて定量的に明らかにしたいと考えている。 そして、以上のような実験的な解析により得られた知見と、計算化学により得られる知見とを照らし合わせ、アプタマーが標的分子をどのように認識し結合するのか、その分子認識メカニズムの理解を目指していく。 さらに次年度では、これまでの研究を通じて蓄積した知見に基づき、標的分子に対する結合力の向上に繋がるRNAアプタマーの化学修飾の指標を突き止めていく。そして、標的分子に対してより強く結合するRNAアプタマーの分子設計を試みる。設計した新規RNAアプタマーは実際に化学合成を行い、表面プラズモン解析により、標的分子との相互作用の測定を行う。そして、実験により得られた相互作用の熱力学パラメータと、計算化学により得られる相互作用エネルギーおよび静電的相補性を照らし合わせ、計算に基づく分子設計を検証・フィードバックする。
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Causes of Carryover |
ワークステーションの購入を予定していたが、世界的な半導体不足による価格高騰と納期が大幅に伸びている現状から、当該年度でのワークステーションの購入を見送った。研究計画の遂行に大きな支障が生じないよう、研究代者が所有するワークステーションの運用を調整し、本研究の遂行に必要なシミュレーションを実施している。次年度以降、市場動向を鑑みながら、適切なタイミングでワークステーションを購入する予定である。
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Research Products
(22 results)