2022 Fiscal Year Research-status Report
Comprehensive Research on Regional Integration in Europe
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21K12406
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
岩田 健治 九州大学, 経済学研究院, 教授 (50261483)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | EU経済統合 / 単一市場 / 単一通貨 / ユーロ / ウクライナ / 国際通貨 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終目的は、(1)2010年代にEU統合が直面した困難の本質を「経済統合論」の理論枠組みを用いて概念的に把握し、(2)①EU単一市場および②単一通貨ユーロの長期的存続を可能とする諸条件や制度の在り方について解明することにある。 以上の研究目的に向け、2022年度は以下の研究を実施した。第1は、単一通貨ユーロの対外的側面に注目した論文「ユーロの国際的役割強化を目指すEUの諸施策―国際通貨システムは多極化に向かっているのか?」【業績1】である。これは、前年度に公刊された田中素香・長部重康・久保広正・岩田健治(2022)『現代ヨーロッパ経済 第6版』有斐閣アルマで研究代表者が担当した「第15章 世界経済の中のユーロ」の内容に、新たな論点とデータを加えて執筆したものである。 第2は、ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえた学会予定討論や一連の講演および討論の実施である。学会発表として2022年6月22日の日本科学振興協会(JAAS)キックオフミーティング共催シンポジウム「エネルギーの国際政治経済」において市川顕教授(東洋大学)による報告「ロシアによるウクライナ侵攻によるEUエネルギー政策の動揺」に対する予定討論を行った【学会発表1】。また内外の講師を招聘して以下の2つの講演を実施した。第1は、22年7月19日に、元駐韓EU大使でブリュッセル・ガバナンス・スクール特別教授のMichaelReiterer博士を招聘して、九州大学EUセンター(ジャン・モネCoE九州)主催のジャン・モネ・セミナー「ウクライナにおけるロシアの侵略戦争-EUと日本への影響」を開催し、その後、広範な意見交換を行った。また同年11月18日には、丹羽連絡事務所チーフエコノミストで福井県立大学客員教授の中島精也氏を招聘し「ウクライナ・ショックと世界経済」と題した講演会を開催し、各種の意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題二年度目の2022年度においては、上の「研究実績の概要」冒頭に示した研究目的のうち、目的(2)②に関して【業績1】において、単一通貨ユーロの対外的側面に論点を絞り検討を行った。特に2019年以来、EUはユーロの国際的利用に係るビナインネグレクト政策を転換し、その国際的役割の強化に係る一連の施策を打ち出しているが、その背景や具体的内容について、ECBをはじめとする現地での議論をサーベイしつつ、国際通貨論の理論的枠組みを用いて整理し、今後の展望を示すことができた。その点で、本研究課題は、おおむね順調に進展していると評価できる。 また研究目的(2)①の単一市場に関しては、2022年2月に始まるロシアのウクライナ侵略により、それがもたらす種々の影響を踏まえた分析が本研究課題遂行のために不可欠となった。そのため、エネルギー分野では、6月に【学会発表1】により、ウクライナ侵攻前のEUの脱炭素戦略Fit for 55が、「脱露」というエネルギー安全保障の観点から修正を余儀なくされREPowerEUとなったことの経済学的意味について論じた。 また政治分野では7月に実施された元駐韓EU大使Michael Reiterer 氏の講演およびディスカッションを通じて、ウクライナにおける戦争へのEUおよびEU構成各国の対応と外交課題、当該戦争がEU統合にもたらす影響、さらには日本におけるEU研究の現状と展望等について広範なディスカッションを行った。経済分野では、11月の中島精也氏の講演およびその前後での討論を通じて、ロシアの天然資源に依存し中国市場を輸出先として成長してきたEU成長モデルが崩壊しつつあるという認識が共有された。以上、エネルギー・政治・経済の三分野の専門家と討論を通じて、EU単一市場をとりまく環境の劇的変化と当該変化にアプローチする際の基本的視座が解明できたと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
上の「研究実績の概要」冒頭に示した研究目的の中の「(1)2010年代にEU統合が直面した困難」とは、具体的には「単一通貨ユーロ」を襲ったユーロ圏政府債務危機と「単一市場」の史上初の縮小を意味する英国のEU離脱(ブレグジット)に他ならなかった。しかし、22年に始まるロシアによるウクライナ侵攻により、EUの「単一市場」と「単一通貨」を取り巻く政治経済的環境も激変し、COVID-19とともにEU統合は新たな「困難」に直面することになった。2022年度は、ウクライナでの戦争がもたらしている種々の「困難」を、エネルギー(環境)・政治・経済の分野の専門家とのディスカッションを通じて論点整理できたので、23年度は、そこで得られた知見を基盤に以下の方向で研究を進める。 研究目的(1)については、ウクライナにおける戦争がもたらしている新たな困難の本質を「経済統合論」の理論枠組みの中で概念的に把握するための作業を開始する。そのために、各種文献と資料の収集を行う。 研究目的(2)①の単一市場については、EUによるコロナ禍からの復興基金やそのための共同債発行の現状についてデータの収集を行い、研究集会を開催することで専門家とのディスカッションを行う。ウクライナでの戦争により修正を余儀なくされている「欧州グリーンディール」についても資料収集と分析を行う。研究目的(2)②の単一通貨ユーロについては、刊行を予定している『EU百科事典』の関連項目完成に向け、BISの外国為替市場調査などの分析を行う。関連して米中新冷戦やウクライナ侵攻に伴う対ロシア制裁が、ドルやユーロの国際的役割にもたらす影響に関して分析を行う。並行して、ユーロ存続の核心と考えられる経済同盟の成果について、引続きヨーロピアン・セメスター関連資料を収集し分析を行う。 以上のうち新たな知見が得られたものから、順次論文として公刊を行っていく。
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Causes of Carryover |
2021年度は、研究打ち合わせと報告会のための東京・関西への出張を4回程度予定していたもののコロナ禍で実施できず、オンラインでの学会予定討論およびオンラインでの研究打ち合わせとなった。また著書等の執筆対象の多くが直近の動きにフォーカスしたものであったため、必要な文献・資料の多くがオンラインで入手でき「地域的統合とEU経済関連文献と資料」への支出が抑制された。コロナ禍も相俟って関連文献・データの整理の謝金の支出も不要となった。その結果、425,211円の繰越が生じた。 2022年度は、新型コロナ禍も終息に向かい、対面での講演及び専門的知識の提供のための招聘謝金を支出し、また文献・資料についても歴史・理論の双方から代表的文献や資料を購入することができた。しかし、前年度繰越分の全てを使用するには至らず、294,432円の繰越が生じている。 本年度は、研究打ち合わせなどを予定通りかそれ以上の頻度と人数で開催することにより、繰越額を有効に利用する計画である。
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Research Products
(3 results)