2021 Fiscal Year Research-status Report
感染症流行へのレジリエンス:アフリカ社会のフードシスムをめぐる協働のモデル構築
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21K12443
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
中川 千草 龍谷大学, 農学部, 准教授 (00632275)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ギニア / 社会的危機 / フードシステム / フードチェーン / 地域食農ガバナンス / 持続可能性 / ローカルビジネス / 小規模生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
大規模な感染症の流行に注目し、こうした社会的危機に対応可能なフードシステムの構築に必要なツール、およびそれを阻む課題をあきらかにするという研究目的に基づき、研究活動を行なった。まず、主要な食品の市場販売価格の変動について、首都Conakryおよび内陸への流通拠点であるLabeにて、2021年6月から2022年3月に調査(リモート)を実施した。その結果、2020年度に比べると、covid-19流行からの直接的かつ大きな影響は確認できず、むしろ、雨季/乾季という気候、収穫時期、ラマダンなど年中行事、さらに港湾整備による漁港の封鎖やクーデターといった国内情勢からの影響が大きいことがわかった。インタビュー調査からも、こうしたことを実感しているような語りが数多く得られた。ただ、国は生活必需品や家賃の高騰を懸念し、2022年3月に食品の輸出規制、首都や近郊県における上限価格設定などを発表している。 加えて、近年、人口増加に伴う、食料の国内受給率が低下していることを踏まえ、輸入食材にも着目し、価格変動について調査を実施したところ、こちらも大きな変動はなかった。その一方で、さまざまな食材の国内生産量増加に向けた動きを確認することができた。例えば、従来主なタンパク源が魚であったことに対し、生活様式の変化により、肉の需要が一層高まっている傾向があり、食肉生産加工ビジネスが広がりつつある。国や外資系企業は、大規模な孵化場や養鶏場の建設と運営を進め、国内食料受給率の安定化と雇用の機会創出を図ろうとしている。同時に、養鶏学校が各地に開校し、受講生が殺到している状況にある。食料生産現場への感染症流行による直接的な影響は減少しつつあるが、食の安全や安定したフードチェーンの確保の契機となっていると考えることはできる。2年目は、養鶏の動向についてさらに情報収集を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採択前から続くcovid-19の流行を受け、初年度の現地調査は実施できなかったという点では、研究計画の進捗に影響が生じたと言わざるを得ない。また、調査地の一つであるKamsarの研究協力者が自身の体調と家庭の事情によりリモートワークを十分に担うことができなくなるという予測できない事態が起こり、年度内に代わりの協力者を探すことができなかったため、情報収集が滞ってしまった。 しかし、ConakryとLabeについては、渡航困難な状況をあらかじめ想定し準備していた、現地関係・協力者によるリモートワーク(調査)を実施することができた(2021年6月から2022年3月の間Conakyからの報告は毎月、Labeからの報告は4回、養鶏学校での調査を1回)。これにより、現地協力者間のネットワーク形成も進み、協働のプラットフォーム構築に向けた準備が整いつつある。さらに、食品が集まる市場の様子や宗教施設などの写真撮影を行い、映像資料を入手できた。 当初の計画には含まれていなかった「国内家禽産業の隆盛」という官民一体の動向があきらかとなり、研究の幅が広がったことから、リモートワーク(調査)は、最新の知見と情報収集に大きく貢献し、不安定なフードシステムの解消という研究目的をさらに発展させた。したがって、全体的な進捗を見れば、おおむね順調に進展しているという評価になると考える。 また、類似の研究関心を持つ研究者と国内研究会を3回実施(2021年10月、12月、2022年2月)し、感染症からのフードシステムへの影響、移民社会のフードシステム、海外における日本企業による食品ビジネスの動向などに関する発表と議論を通し、そこで得られた知見を本研究にフィードバックすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、社会的危機に対応可能なフードシステムの構築に必要なツール、およびそれを阻む課題の解明に向け、感染症流行前後の一般的な食生活の様子と消費行動に関する情報を集め、具体的な影響の把握を継続する。加えて、初年度の研究活動で得られた「養鶏ブーム」という食料生産現場のあらたな動向について、集中的な調査研究を進めたい。従来、アフリカ各地の養鶏は、小規模でローカル性が高く、いわゆる地産地消型で進められて来たが、こうした食料生産の現場は、国内の食料需要を十分に満たすことができないため、国策の対象から外されてしまう傾向にある。国は、大規模な大量生産を進めがちであるが、外資系企業の占有、国の経済、政治事情や感染症を含めた環境からの影響を考慮すれば、こうした国策は国内フードシステムの構築の礎となるとは言えない。フードシステムの安定化には、ローカルかつ小規模な生産加工、およびビジネスの強化が求められると仮定し、その可能性を見出すことができ、かつあらたな動きでもある「養鶏」に着目し、地域食農ガバナンスという視点からの研究を進めたい。 渡航が可能な状況となれば、Conakryにおける現地調査を実施する。また、フランス・パリのギニア出身者コミュニティのフードシステムについてもフォローアップし、ギニア国内の食料生産者の生活維持に影響を与える、食品輸出の状況を把握(国による輸入規制からの影響)しつつ、移民社会の食の安全・安心についても情報を収集したい。 2022年度は国内研究会は、年4回程度実施予定である。また、状況が許せば、研究協力者1名を日本に招聘し、比較検討するための事例研究(現地調査や研究会など)を実施したい。また、中間的な成果(予備考察)発表を国内学会の学術大会において行う。
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Causes of Carryover |
covid-19の流行により、海外渡航ができなかったことが主な理由である。使用計画としては、リモート調査に伴う謝金およびそのために必要な機器の購入に当てる予定である。
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