2023 Fiscal Year Research-status Report
児童虐待事案に関する刑事司法過程のジェンダー論的研究
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21K12502
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤田 智子 九州大学, 比較社会文化研究院, 講師 (20782783)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大貫 挙学 佛教大学, 社会学部, 准教授 (60779586)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 児童虐待 / 刑事司法 / ジェンダー / 家族規範 / 統治性 / 刑事確定訴訟記録法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「児童虐待」事案の刑事司法における「扱われ方」をジェンダー論の観点から研究するものであった。本年度の実績は大きく以下のとおりである。 まず、保護者による児童の致死事件を中心に、全国各地で刑事裁判の公判傍聴を行った。具体的には、母親と同居人による虐待の末に子どもが死亡したとされる事件、母親の交際相手であった男性が子どもを虐待したとされる事件(母親は直接の実行行為を行っていない)、夫からのDVの末に母親が「拡大自殺」を図り子どもが死亡したとされる事件等の裁判を傍聴した。なお研究分担者は、刑事司法の「論理」を考察するため、「児童虐待」事案に限らず、嬰児の死体遺棄、列車内での殺人未遂、ストーカー等の事件も調査対象とした(これらは「児童虐待」事案の特徴を明らかにするための比較対象ともなる)。また判決確定後の訴訟記録について、保管検察官に閲覧請求等をした。 さらに、専門家、社会運動家等からのヒアリングを行った。同時に、刑事施設における被収容者の処遇に関する行政文書も、情報公開法にもとづく開示請求によって入手している。 そのうえで、これまで得られた事件の記録を横断的に分析し、すでに行った学会報告の内容もふまえ、刑事司法過程において母親がどのように裁かれるのか、その「論理」を考察した。 研究成果の発表としては、2000年の児童虐待防止法制定以降の関連法令や行政について、「家族の統治」という観点から検討した共著論文が学会誌『三田社会学』に掲載された。また研究分担者個人は、精神鑑定や刑事司法における責任帰属の過程を分析した論文、本研究の問題意識に関わる理論的視点として、ジュディ・バトラーにおける「身体」の位置づけを考察した論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
「児童虐待」事案や関連する刑事事件の調査(裁判の傍聴・訴訟記録の閲覧請求)については、研究分担者は積極的に実施したものの、研究代表者は公務等と日程が重なり、参加できないことが多かった。得られた調査結果の分析についても、特に研究代表者は、別のテーマの依頼原稿執筆や公務等のため、十分な時間を確保できなかった。また、裁判確定後の訴訟記録に関して、その保管者である検察官に閲覧請求等をしたが、未だ閲覧できていないものも多い。さらに、現時点で判決が確定していない事件の訴訟記録は、今後、確定を待って閲覧請求することとなる。 そのため、共同での研究成果の発表としては、児童虐待防止法や関連法令、政策運用について、行政文書等を分析した共著論文が学会誌に掲載されるにとどまった。 なお研究分担者は、いわゆる「幼児連続殺人事件」の法廷言説を分析した論文や、ジュディス・バトラーにおける「身体」を「被傷性」概念に着目して考察した論文の執筆を行うことができた。これらは本研究課題に関わるが、「児童虐待」事案の分析と直接関連付けて検討するには、各事例の比較やさらなる理論的考察が必要となる。 このような状況から、本研究課題については補助事業期間延長を申請し、承認されている。以上の調査及び研究成果発表の状況をふまえ、現在の進捗状況としては「遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、現在調査中の刑事事件の公判傍聴、訴訟記録閲覧等を引き続き行いつつ、必要に応じて新たな事案の調査も行う(公判期日は適宜、裁判所等に期日を確認しているところである)。また、すでに協力の承諾を得ている関係者・専門家等へのヒアリングも実施したい。並行して、研究代表者と研究分担者がそれぞれ収集してきたデータを整理し、分析のための打ち合わせを行う。 研究成果の公表としては、各事例の分析結果を学会大会や学会誌等で発表することが当面の課題となる。そのうえで次年度中には、各事例を横断的に検討し、総合的な知見を示したい。すなわち、個別の事案の間に見いだされる共通点や差異を検討し、「児童虐待」をめぐる刑事裁判の論理を分析することで、「児童虐待」を犯罪化し、その原因を親個人に還元する現代社会のあり様そのものを批判的に考察する。その際、「児童虐待」以外の事例も参照することで、「児童虐待」事案の立体的な考察が可能になるだろう。ここから得られた成果も、学会大会で報告したうえで、学会誌に投稿する。将来的には、次年度終了後に、これらをまとめて著書を刊行する。 併せて、ミシェル・フーコー、ジュディス・バトラー等の議論をふまえて、ジェンダーと主体化に関する理論研究を発展させる。これらは、刑事司法のなかのマイノリティの位置や刑罰制度の論理、さらに「児童虐待」事案をめぐる司法・行政の権力を批判的に考察するにあたって重要である。
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Causes of Carryover |
本年度も予算の多くを公判傍聴等の調査に伴う旅費に充てる予定であった。しかしながら研究代表者が、所属大学の用務等で十分な時間を確保できず、一部の調査に参加することができなかった。とくに、調査対象となる事件の公判期日が公務等と重なることが多く、公判傍聴の方を断念したことも少なくなかった。そのため、その分の予算が未使用となった。 本研究においては、公判を実際に傍聴することが重要となる(公判廷での訴訟関係人の言動は訴訟記録にすべて記載されているわけではない)。したがって、次年度は研究代表者も、できるだけ多くの公判を傍聴するつもりである。また、全国各地の検察庁にも刑事確定訴訟記録の閲覧に行く予定である(判決が確定した事件については、その多くを本年度までに閲覧請求等しており、次年度の早い段階で閲覧許否等の処分が通知される見通しとなっている)。さらに、調査協力者との面談等も必要になる。そのうえで学会等において、これまでの研究成果を発表したい。 これらの調査に伴う旅費のほか、調査を遂行するための委託費等が次年度に必要となるため、本年度の未使用額を有効に活用する。
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[Book] 家族社会学事典2023
Author(s)
日本家族社会学会編、大貫挙学・藤田智子他著
Total Pages
704
Publisher
丸善出版
ISBN
978-4-621-30834-9