2021 Fiscal Year Research-status Report
「生の哲学」としてのハイデガー哲学包括的解釈の試み
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21K12833
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Research Institution | University of Human Environments |
Principal Investigator |
城田 純平 人間環境大学, 人間環境学部, 講師 (00816598)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ハイデガー / 哲学史 / 生の哲学 / 哲学的人間学 / ディルタイ / シェーラー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、マルティン・ハイデガーの生涯の思索を「生(Leben)」を鍵概念として包括的に解釈することを企図するものである。 1919年から1923年にかけての、いわゆる初期フライブルク時代の彼の講義録を見ると、『存在と時間』ではほとんど用いられていない「生」の概念が多用されていることが分かる。この「生」の概念は、彼に先行するヴィルヘルム・ディルタイの「生の哲学」の影響下において用いられているものであり、また、ハイデガーの同時代人であるマックス・シェーラーの哲学的人間学における中心概念でもある。その意味で、初期フライブルク期のハイデガーが、いわば「生の哲学」を遂行していたことは明らかであるものの、しかし他方で、「生」概念が『存在と時間』(1927年)の時期には使用されなくなっていることから、ハイデガーは「生の哲学」の立場を捨て去り、「存在(Sein)」の思索へと舵を切ったのだ、と、みなすことが、従来のハイデガー研究における一般的な見解である。 そこで、本研究では、思想史的な影響関係という点については、ハイデガーにおける、ディルタイおよびシェーラーからの影響にとくに注目しつつ、ディルタイ全集およびシェーラー全集における重要論文を中心に読解を進めており、とくにディルタイに関しては、「記述的分析的心理学」を主な分析の対象としている。 それと併せて、本研究では、初期フライブルク期から『存在と時間』期にかけての、ハイデガーの思索の展開のみならず、いわゆる中・後期の彼の思索についても、「生」を鍵概念として解釈していくことを目指している。今年度は、とりわけ、前期から後期への過渡期のテクストである『芸術作品の根源』に着目し、彼がそこで展開している芸術論を、「生」概念に着目して解釈することで、彼の生涯の思索の中に適切に位置づけることを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、ディルタイおよびシェーラーからの思想的な影響関係を考慮しつつ、ハイデガーの思想全体を「生」概念のもとに包括的に解釈することを企図している。 今年度は、とくに、ハイデガーの思想に内在的な視点から、初期から前期への思想の展開、さらには後期思想の内容も展望しつつ、彼の生涯の思索全体を「生」の概念でもって整理するための下図を描いてきており、これは、これまでに研究者が発表してきた諸論文を再検討する作業でもあるため、これについては、概ね順調に進捗していると言える。 そうした作業を踏まえて、とくに今年度は、前期思想から後期思想への展開を考える上で重要な1930年代のテクストである『芸術作品の根源』の分析も実施し、比較的、独立して取り上げられやすい彼の芸術論を、「生」の概念を補助線とすることで、彼の生涯の思索全体の中に適切に位置づけることができた。 ただし一方で、ディルタイおよびシェーラーからの影響関係の検討、という意味では、勤務先大学での勤務状況の変化(学長室への所属等)により、当初、ディルタイおよびシェーラーの文献の読解、および、重要な二次文献の読解にあてる予定であった時間を、他の業務にあてる必要が生じてきたため、これについては十分に行うことができたとは言い難く、関連する邦語文献の読解のみに止まった。 次年度は、重要なドイツ語文献の読解、および、ディルタイ・シェーラーの一次文献の読解を速やかに行い、それを踏まえた上で、本研究に関わる影響史的な問題を十分に整理することが優先的な課題である。 こうした理由から、本研究の進捗は、全体的に見て「やや遅れている」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の課題として、ハイデガーに大きな影響を及ぼしていると考えられる、ディルタイおよびシェーラーの一次文献の再検討、および、関連する重要なドイツ語文献の読解が挙げられる。とりわけ、ディルタイからの影響については、これまでに「記述的分析的心理学」の分析を中心に進めてきているが、いわゆる後期ディルタイの歴史論や世界観学の分析等については不十分であるため、これらを丁寧に進めていく必要がある。 また、影響作用史という観点以外にも、ハイデガーの思索に内在的な立場から、彼の生涯の思索の展開を包括的に見ようとするとき、本研究では、これまでに、初期から前期にかけての彼の思想を中心に検討してきているため、ここからは後期思想にも積極的に目を向け、本研究の鍵概念である「生」概念を補助線として、これを的確に分析していきたいと考えている。その際には、現在までの本研究の成果でもある、1930年代の『芸術作品の根源』でハイデガーが展開した芸術論の分析を足掛かりとして、そこから後期思想への展開がどのようにして行われたのかを詳細に検討していく予定である。 以上のような観点から分析を進めることで、最終的に、ハイデガーの生涯の思索全体を「生」概念のもとに包括的に解釈し、従来の研究には見られなかった独創的な仕方で、彼の思索の展開を整理するとともに、ディルタイおよびシェーラーからの影響関係についても、これまでの研究史を見直し、これを更新していくことを目指す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍につき学会がオンライン開催となり、旅費として考えていた経費を物品費にあてるなどの変更が生じた。物品費は主に書籍であるが、これについても、購入する予定であった全集などのうちのいくつかについて、所属先の図書館から除籍になったものを入手することができたことなどにより、当初の予定よりも、経費を抑制することができた。そのため、微細な次年度使用額が生じた次第である。本研究を遂行するのに必要と考えられる書籍で手許にないものを購入するため、これらの経費については次年度有効に使用していく計画である。
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