2021 Fiscal Year Research-status Report
金融資本主義胚胎期としてのヴィクトリア時代の小説における責任主体表象に関する研究
Project/Area Number |
21K12949
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
原 雅樹 広島市立大学, 国際学部, 講師 (30783500)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 19世紀イギリス小説 / 資本主義 / 金融 / 芸術 / 倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の中心的な問題は、ヴィクトリア時代の小説家たちが、社会の金融資本主義化に直面しながら、いかに責任主体をめぐる思考を展開していたのかということだ。ヴィクトリア時代には社会の金融資本主義化が大きく進展した一方で、少なくない小説家たちがあらゆるものを商品化し資本の増殖そのものを目指す資本主義の発想を批判的に捉え、その中で倫理的であるためにはどうすればよいのかを模索していた。今年度は今後の研究において扱う主な資料、すなわち19世紀イギリスの代表的な小説家チャールズ・ディケンズ、ジョージ・エリオットとトマス・ハーディに関する文献の調査・収集をおこないつつ、主として同時代の金融史および倫理学史関連文献と、それらの接点を扱う金融文化史関連文献を調査・収集し分析した。その過程で、当初の計画では見えていなかった論点を発見することになった。というのは、小説家たちは、資本主義社会のなかにおいて小説という文学形式がいかに貨幣とは異なる価値をもちうるのかということをめぐって思考を展開していたのである。小説はもともと、詩や演劇といった近代よりもはるか以前から存在する文学形式とは違って、近代資本主義社会を背景に誕生した新しい文学形式であり、その根本には需要や流行に合わせて市場に流通する娯楽商品としての性質がある。だが、小説家たちは、小説内容において万物の商品化を批判しただけでなく、小説形式それ自体から商品性を取り除き、それを芸術の地位に高めることで資本主義から距離を取ろうとしたのだ。したがって、今後の研究では、芸術論の観点を取り入れつつ、資本主義社会における芸術としての小説の倫理性についても明らかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨今の世界情勢のため当初計画していたほど順調には文献調査・収集を行うことができていないが、いまのところデータベース活用や古書購入などで補うことができている。
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Strategy for Future Research Activity |
計画どおり、今年度も金融文化史関連の文献の分析を進めながら、先を見据えて小説の分析を開始する。上記の「研究実績の概要」で触れた新しい論点についても、文献調査・収集・分析をおこなう。これは、従来の計画には含まれていない新たな課題だが、従来通りの方法論で容易に対応可能である。
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Causes of Carryover |
この額については、研究の二次資料の物品費として使用予定であったが、古書店に発注後先方の都合で注文がキャンセルとなった。そのため、その額を当該年度中に支出することがかなわなかった。当初入手予定であった資料を提供しうる別の古書店を早急に探して、見つけ次第発注し、物品費として支出する計画である。
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