2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K13118
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
北澤 直宏 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任研究員 (00844630)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ベトナム / 伝統文化 / 文化政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
東南アジア大陸部に位置するベトナムは、20世紀、植民地・戦争・社会主義と、社会変動が続いた国である。それ故に20世紀のベトナム史は、1930年に結成されたベトナム共産党の歴史として描かれることが多いのだが、一方で同国は、多宗教・多民族国家としても知られている。では、その近現代史を共産党史と同一に見なすことは、果たして妥当と言えるのか。このような問題意識の下、応募者はこれまで、公定史観とは異なる視点から同国史を捉えようとしてきた。 本研究課題は、同国の伝統劇カイルオンを通し、文化の側面から公定史観の相対化を図るものである。しかし、娯楽性が高い反面、ベトナムのみならず東西文化の諸要素を取り入れて来たカイルオンは、「伝統文化」として国内外から高く評価されながらも、非常に捉え難いことでも知られている。そこで基礎データベースを作成すべく、回顧録に代表される刊行資料を参考に、劇団・作曲家・俳優といった担い手たちの系譜整理を行った。また、これらで得られた情報を参考に、代表的な演目の詳細を把握すべく、脚本ならびに映像資料の収集と分析を行った。 新型コロナウイルスの拡大により、ベトナムでの現地調査は断念せざるを得なかったことから、これらの調査研究は、既に収集していた資料の読解・分析や、日本国内における文献調査に依拠している。基礎情報の蓄積に関して前進はあったものの、そこから踏み込んだ考察を行うには更なる調査と分析が必要であり、これは次年度の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度である2021年度は、新型コロナウイルスの影響により海外渡航がかなわず、予定していたベトナムの図書館や文書館における資料所蔵状況の調査や、舞台関係者への聞き取り調査を行うことが出来なかった。 そのため、日本国内で資料調査を行うこととし、国会図書館ならびに京都大学が所蔵する関連法規や国会議事録の入手・読解を行った。また、それと並行してカイルオンを記録した映像資料から代表的な作品5点を選び、在日ベトナム人の力を借りて台詞の文字起こし作業を行った。大衆娯楽である伝統劇の文脈を適切に理解するためには、題材とされている歴史観や宗教観の把握が不可欠であり、更にその価値観も時代や社会の影響を受け変化しているからである。 これらの作業を通し、カイルオンに関する基本的理解を深めることが可能となった。同じ題材を取り扱った劇であっても、時代が下るにつれ劇中で使用される言葉や登場する神々に明らかな易化が生じていることが判明したが、その背景までは論じることが出来ていないため、引き続きの調査が求められる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の海外渡航状況は改善の兆を見せているとはいえ、依然として先行きは不透明である。そのため、ベトナムでの調査を理想としつつも、国内で入手可能な資料を活用した研究を行う。 まず行うべきは、脚本や台詞起こし資料の更なる収集と整理であり、これは将来的なデータベース作成の上でも必要な作業である。また、論文執筆に向けた作業として、刊行資料の活用を念頭に、文化政策に焦点を当てた分析を深化させると同時に、特定の個人や作品に焦点を当てた考察を行い、当初の目的を達成することとしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により、2021年夏季に予定していたベトナム現地調査が不可能だったためである。それに代わる調査は、2022年度冬季に改めて行う予定である。
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