2021 Fiscal Year Research-status Report
カーボヴェルデの島民と移民の新たな「故郷」の構築と創造をめぐる人類学的研究
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21K13175
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
青木 敬 関西大学, 文学部, 准教授 (60791217)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 故郷 / 大分の歴史文化 / ペトロ岐部カスイ / 共生と文化接触 / カーボヴェルデ音楽 / 共同制作 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度(2021年度)は海外へのフィールドワークが困難であったため、現場のデータを収集・分析することができなかった。そのため、国内における「故郷論」についての実践的研究をもとに、論考を出版することとなった。以下2つの調査について概説する。 第1の調査は舞台公演および小説執筆をとおした表現分析である。私は大分県竹田市を拠点とした舞台公演をおこない、ダンス、映像、照明、小説などの多様なアート表現と参与観察を基にした現地調査=人類学的方法との分野横断的な制作をとおして、表現の意味と変容、その価値を見出すことができた。私の舞台における役割は、対象地域である大分県(主に竹田市、国東市、別府市)をひとつの「故郷」とみなし、聞き取り調査と史料をもとに小説を書くことと、そこからみえてくる「故郷」にかんする風景を舞台で表現することであった。 とりわけ、国東市が生まれ故郷であった16世紀の司祭、ペトロ岐部カスイについての分析を主軸に置いた。17世紀初頭にローマで司祭となった岐部はその後、鎖国最中の日本で潜伏しているキリシタンたちの一助となるため、殉教を覚悟し日本へ帰国したが、そこで捕らえられ、処刑される。彼が思い描いた「故郷」の風景を、ペトロ岐部カスイに関する多くの史料を展示している国見ふるさと展示館で見たもの・感じたものをとおしてつねに創造されうる故郷の姿を明らかにし、同時に故郷に対する情念や思慕についても分析することができた。 第2の調査は、カーボヴェルデにおける日本人漁師についての歌を分析し、島民がどのように新たな歌を生成しているのか明らかにしたことである。そこには「故郷論」を論じるうえで重要となる異文化接触と共生の観点がみられ、カーボヴェルデ史の新たな視点・姿・形を明らかにした。 これにより、本来の対象地域であったポルトガル以外の「故郷論」について詳細に分析することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象としていたポルトガルとカーボヴェルデへ渡航できなかった。その一方で、国内において実施している新たな視点での「故郷論」は、実際に現場へ行くことができたため、おおむね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、はじめに設定していた研究対象地域における故郷論の方法論を分析することである。また、コロナウィルス感染症によって、どのように現地社会や島民同士の「かかわり」が変化しているのかについて着目したい。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス感染症の影響により、現地調査を実施できなかったため、予定していた研究費を使用できなかった。 次年度は、予定していたとおり、ポルトガルの首都リスボンにおけるカーボヴェルデ人移民のコミュニティを対象とした現地調査を実施する。分析の内容は、科研費の内容に一貫してみられる故郷論についてである。 具体的には、カーボヴェルデ人移民が彼らの伝統音楽をどのように継承しているのかを確認することと、それを紡いでいくためにどのような文化実践が必要なのか、さらに伝統音楽をとおしてみえてくる移民たちの故郷の風景を描くことである。
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Research Products
(3 results)