2022 Fiscal Year Research-status Report
カーボヴェルデの島民と移民の新たな「故郷」の構築と創造をめぐる人類学的研究
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21K13175
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
青木 敬 関西大学, 文学部, 准教授 (60791217)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 移民 / 音楽継承と実践 / 相反する社会的立場 / 故郷の探求 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の調査は、ポルトガルにおけるカーボヴェルデ人移民コミュニティに着目し、彼らの「郷里主義」に関する精神がどのように音楽をとおして実践されているかを観察することであった。 リスボン市内におけるカーボヴェルデ人移民は、酒場やレストラン、ダンスクラブにおいて主にその活動傾向がみられる。これはカーボヴェルデ国内にみられる観光のために利用しているというよりは、同郷者たちが集い、カーボヴェルデの文化を共有する空間だといえる。 本調査で理解できたことは、想像以上に、移民コミュニティが複雑に構成されていることであった。居住地区によっても、血筋によっても、出身地によっても、リスボンでの社会的立場が異なる。このことが音楽実践に多大な影響を及ぼしていることは深刻だといえよう。貧困地区のコミュニティは、孤立しており、外部者に対して心を開かない。とはいえ、貧困街ではむしろ若者文化が際立ち、ヒップホップをとおしてポルトガル社会への不満を露にしていた点は興味深かった。すなわち、カーボヴェルデの伝統的な音楽ではなく、クレオール語で表現するヒップホップで若者としてのアイデンティティを語る。一方で、リスボン市内に居住する音楽家たちの活動は凄まじく、毎週のようにライブを実施し、老若男女のアフリカ系移民とポルトガル人が集まる。その空間では、伝統的なカーボヴェルデ音楽を演奏し、そこに集う者たち全員で現地のダンスをする。 こうした音楽やほかのカーボヴェルデ文化を日常において実践する場があり、それを表現するためのアーティストたちがおり、それを共有できるポルトガル人がいることは、今後のカーボヴェルデ人移民の故郷を構築するうえで、極めて重要であることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初の1年間が コロナ禍であったため、進捗状況は悪かったといえるが、今年度は、ポルトガルを中心に、ドイツとイタリアにも目を向けることができ、カーボヴェルデ人移民の広大なネットワークが構築されるなかで、リスボンがその中心的役割をになっていることがわかった。 これを踏まえ、今年度は、リスボンに1ヶ月調査のために滞在し、分析すべき対象が明確かつ具体的に理解できた点において、順調に研究が進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、カーボヴェルデに滞在し、故郷や離郷主義をテーマとした民族誌映画を制作する。リスボンで収集したデータをもちいることで、カーボヴェルデとリスボンを比較することが可能となる。さらに余裕があれば、マグロ漁師にかんする歌をテーマとした民族誌映画を制作する。
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Causes of Carryover |
初年度の際のコロナ禍によって使用するはずの経費が大幅にずれたため。使用計画としては、主としてカーボヴェルデにおける音楽の調査と映像制作のための費用に用いることとする。
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