2021 Fiscal Year Research-status Report
非エルミート・トポロジーと強相関効果が誘起する新奇物性
Project/Area Number |
21K13850
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
吉田 恒也 筑波大学, 数理物質系, 助教 (50733078)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 非エルミート系 / 開放量子系 / トポロジカル物性 / 強相関系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、以下の成果を挙げた。(i)非エルミート系における分類学のリダクション. (ii)近藤絶縁体における例外点. (iii) 判別式に基づく例外点の解析 (iv) トポロジカル現象の新たな舞台の開拓。 (i)の「非エルミート系における分類学のリダクション」においては点ギャップトポロジーという非エルミート系における特有のトポロジーに対する強相関効果を議論した。その結果、ゼロ次元系においては相互作用が無い場合にはZの分類にしたがい無限個のトポロジカル相が許されるのに対し、相互作用がある場合はZ2の分類に変化し二種類のトポロジカル相しか許されないことを明らかにした。この分類学のリダクションは相互作用の効果が本質的に効いた現象である。 (ii)の「近藤絶縁体における例外点」においては、SmB6を念頭においた動的平均場による数値シミュレーションにより近藤絶縁体表面において例外点が発現することを明らかにした。 (iii)の「判別式に基づく例外点の解析」においては系の対称性という観点から、ハミルトニアンの固有値方程式の判別式を議論することにより、多重例外点はトポロジカルに非自明な構造によって守られていることを明らかにした。また、そのトポロジーを特徴づける不変量も導入した。さらにこの研究を発展させ、波数空間の高対称点の情報のみから例外点を検出する判別式指標も導入した。 (iv)の「トポロジカル現象の新たな開拓」においては、進化ゲーム理論で記述される系においてトポロジカル現象が見られることを指摘した。進化ゲーム理論はバクテリアの繁殖や人間の合理的振る舞いを数理的に記述する。本研究では、じゃんけんゲームを拡張した系においてカイラルエッジ状態や例外点・表皮効果などのトポロジカル現象が見られることを実証した。以上の研究にくわえ、粒子-正孔対称性に護られた平方根トポロジカル絶縁体の研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ゼロ次元系の点ギャップトポロジーに対する強相関効果を解析し分類学が強相関効果によって変更を受けることを明らかにした[T. Yoshida et al., PRB (2021)]。この研究では世界に先駆けて成果を挙げる事が出来た。また、強相関効果によって近藤絶縁体の表面に例外点がみられることを明らかにできた[R. Peters PRB (2021)]。以上の成果は本課題の申請時に計画していた研究である。 上述の結果に加えて計画当時には予定していなかった成果もあげることができた。具体的には、三重例外点などの多重例外点が対称性の効果によりトポロジカルに非自明な構造を有することを明らかにした[P. Delplace et al., PRL (2021)]。また、非エルミートハミルトニアンの固有値方程式に対し、判別式を考えることで多重例外点の特徴づけも行った。この研究をさらに発展させ例外点に対する対称性指標を導入した[T. Yoshida et al., PRB (2022)]。以上の研究の他に、進化ゲーム理論で記述される系におけるトポロジカル現象も開拓することができた[T. Yoshida et al., PRE (2021), T. Yoshida et al., Sci. Rep. (2022)]。 以上の研究成果に加えて、平衡強相関系において例外点の発現に関する解説記事や二次元の超伝導体におけるトポロジーの研究でレビュー論文を上梓できた。 これらの理由から当初計画していた以上の成果を挙げることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は(i)一次元非エルミート系での点ギャップトポロジーに対する強相関効果 (ii)量子もつれによる非エルミート・トポロジカル秩序状態の解析に取り組む。 (i)の「一次元非エルミート系での点ギャップトポロジーに対する強相関効果」については、非エルミートな一次元系を考え、数値計算によってエネルギー固有値を直接計算することにより、点ギャップトポロジーの分類学が強相関効果でどのように変更を受けるか明らかにしたい。解析のために必要となるプログラムは既に完成しており、物性研究所などの大規模計算機クラスターを活用して解析に取り組む。なお、ゼロ次元系の解析においては初年度に独自の成果を挙げることができたので、その経験を活かして取り組みたい。 (ii)の「量子もつれによる非エルミート・トポロジカル秩序状態の解析」では、開放量子系で発現が期待される分数量子ホール状態を念頭におき解析を行う。とくに、基底状態におけるトポロジカル・エンタングルメント・エントロピーの計算を行うことで、量子もつれを用いて非エルミート系におけるトポロジカル秩序の特徴づけを目指す。また、解析には厳密対角化を用いるが、数値計算のためのプログラムの準備は整っている。 以上の研究に加え、非エルミート系における対称性に保護されたトポロジカル状態に対する解析も試みる。非エルミート系での対称性に保護されたトポロジカル相の解析は場の理論を用いた解析が行われているが、数値計算を用いて系統的に解析し相図を得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
昨今のコロナ禍により、当初計画していた国際会議・ワークショップへの参加が困難となったため。 本年度はコロナ禍が収まりつつあるので可能であれば国際会議・ワークショップへの参加を検討したい。仮に参加が難しい状況であれば、オープンアクセスの雑誌へ研究成果を投稿し成果を社会へ発信したい。
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