2022 Fiscal Year Research-status Report
多重被災状況における災害/危機の受容メカニズムの解明に関する研究
Project/Area Number |
21K14390
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
小林 秀行 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 専任准教授 (80779851)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 災間 / 社会認識 / 多重被災 / 災害継承 / 絆 / 東日本大震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は2022年度、研究実績として主に2点を達成している。1点目は、災害に対する社会認識についての理論的整理を実施し、これを論文3報にまとめて公開したことであり、2点目は理論的整理をもとに質問紙調査を実施したことである。大規模災害が発生した場合、社会では被災地への関心が急激に高まり、ボランティアや物資の送付などの支援活動が広く展開される。また、自然災害のリスクについて関心が高まることで、防災行動についても一時的な対策向上がみられる。しかし、風化などとも呼ばれるように、これらの変化は短期的であり、持続しないということが知られてもいる。災害に対する関心の低下は、本研究計画が問題意識を有する災害と災害の狭間の時間、すなわち「災間」の実際を理解するために必要な作業であり、本研究計画では「自己責任」「絆」「災害大国」といった言葉を手がかりに、災害に対するこのような反応が起こる背景を明らかとした。加えて、こうした関心の低下の影響を受けつつも、続発する災害によって多重被災を受けている福島県沖地震の被害地域を対象として、東日本大震災以降の生活再建状況に関する質問紙調査を実施した。これらの地域は、十分な「災間」がないままに繰り返し被害を受けている地域であるが、全国的にはその実態が認識をされていない地域でもあり、「災間」の実態がもっとも明らかな形で表れていると考えられる。調査の速報値という段階ではあるが、その結果について述べれば、統計的には福島県沖地震の発生が生活再建を著明に阻害するという影響は見られていない。しかし、一部の設問や自由回答において、被災をくりかえすごとに生活再建に対する意欲や自尊心の低下が認められるケースもみられ、災害の体験を受け止め、その後の生活のあり方を模索する「災間」が十分に確保されていない場合、被災者は不安や重圧、無力感に苛まれる可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、新型コロナウイルス流行による影響が緩和されたこと、2021年度の研究実績を参考として調査対象地を決定したこと、本研究計画の基盤となる理論的整理について進展がみられたこと、などを理由として、とくに年度後半に研究を順調に進捗させることができた。2023年3月には、これまでの研究実績をもとにアメリカ合衆国にて災害研究に関する意見交換も実施しており、今後の研究に対して貴重な意見を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度は本研究計画の最終年度となるため、研究の取りまとめを構想しつつ、2022年度の研究実績について更なる発展を目指す。具体的には、災害に対する社会認識をめぐる理論的整理についてはすでに、論文3報が関連学会にて審査中であり、またその後続となる論文について1報を執筆中である。すでに公開がなされている4報は、災害に対する社会認識が現代社会のなかでどのように構築されているのかを論じたものであり、審査・執筆中の4報は、とくに災害伝承・継承と呼ばれる災害の体験や記憶を継承する取り組みに関するものである。これら一連の論文が公開されることで、本研究計画が示そうとしてきた災害に対する社会認識の実態、とりわけ、災害に対する関心が急速に低下し、ある災害から次に起こる災害への災害に対する理解の継承が難しいという問題の構造を明らかとすることが可能となる予定である。さらに、既に実施した質問紙調査を基礎として、東日本大震災の被災地を対象に、福島県沖地震による被害の有無による、生活再建および災害に対する認識の差異を明らかにするための質問紙調査を実施する予定である。被災地内部でのこのような比較調査によって、十分な「災間」の存在が人々にどのような変化を与えうるのかということを、より正確に把握することが可能となる。
|
Causes of Carryover |
2022年度は、新型コロナウイルス流行状況の変化に応じて研究計画を修正し、改めて質問紙調査の実施ならびに海外での研究報告・意見交換会を実施したものの、他の外部研究費の利用によって当初の想定より支出が減少したことが、次年度使用額が生じた主な理由である。次年度使用額については、2023年度実施予定の質問紙調査に充当することを計画している。
|