2021 Fiscal Year Research-status Report
ヤヌス型蛍光色素分子を用いた分子配列制御に基づくキラル空間の創成
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21K14615
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
上田 将史 北里大学, 理学部, 助教 (60778611)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | クマリン / 三脚巴状分子 / ヤヌス型分子 / 蛍光色素 / 凝集誘起発光 / 分子キラリティー |
Outline of Annual Research Achievements |
分子の「表面」と「裏面」において異なる電子構造を有するヤヌス型分子は,面外双極子に基づく分子配列の制御に有用である.加えて,その構造的異方性と分子キラリティーを組み合わせることで,分子集積構造に基づいた円偏光二色性や円偏光発光の発現を可能にすると考えられる.そこで,薄膜や単結晶などの固体状態における円偏光発光の発現・発光効率の向上を目指して,ヤヌス型配座を有するクマリン融合型三脚巴状蛍光色素分子(TriC誘導体およびTriBfC)の開発に着手した.独自に確立した合成経路から,含窒素ドナー基を導入したTriC誘導体と,分子螺旋軸に沿ってπ共役を拡張したTriBfCを比較的良好な収率(30-50%)で得ることに成功した.TriC誘導体は3回回転軸を有する湾曲構造をとることがX線結晶構造解析から明らかになった.基本的な分子骨格が同様であっても異なる結晶系をとることが判明し,分子配列の制御に関する有益な知見が得られた.希釈溶液中における吸収・蛍光スペクトル測定では,70-150nmの顕著なレッドシフトを観測し,蛍光量子収率の向上を示した.ドナー基の導入やπ共役の拡張など,適切な化学修飾を施すことは本分子骨格の軌道準位の制御に有効であることを実証できた.また,テトラヒドロフランと水の混合溶液中では,含水率の上昇とともに200-350nmのナノ凝集体を形成し,蛍光強度の上昇が観測された.凝集体の形成によって分子運動が制限され,凝集誘起発光を示したものと考えられる.次の段階として,TriBfCの光学分割の検討を行い,エナンチオマーを分離する条件を見つけ出す必要がある.分離した光学活性体の光物理的性質を調査し,得られた知見をもとに固体キラル空間の創出を目指す.さらに構造異性体や高次π拡張型誘導体の合成も同時に行なっていく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
含窒素ドナー基であるジメチルアミノ基やピペリジニル基,ジュロリジン骨格を導入した新規誘導体の合成に成功した.ジメチルアミノ基を有する誘導体は,他の誘導体が三方晶系であるのに対し,三斜晶系であることがX線結晶構造解析から明らかになった.同様の分子骨格にも関わらず,異なる結晶系をとることから,結晶多形の発現にも興味が持たれ,分子配列制御に関する有益な知見を得ることができた.これらの誘導体は希釈溶液中の吸収・発光スペクトル測定において,レッドシフトした波長を観測し,発光効率の向上も示した.一方で,極性溶媒中では,ねじれ分子内電荷移動によって分子対称性が低下するために,発光極大はブルーシフトすることが明らかとなった.親化合物と同様に,テトラヒドロフランと水の混合溶液中では,凝集誘起発光を観測した.これは凝集体の形成に伴い,無輻射過程による熱失活が抑えられたことに起因すると考えられる.以上より,本分子骨格に適切な置換基を導入することで,吸収・発光波長の調節が可能であり,湾曲構造を利用した発光強度の増強を実証できた. TriCは分子反転によって容易にラセミ化するため,エナンチオマーを分離することが困難であった.そこで分子内の立体反発を大きくすることでラセミ化を抑制できると考え,ベンゾ[f]クマリンを三脚巴状に融合した化合物(TriBfC)を合成した.ラセミ体のスペクトル測定では,π共役の拡張に由来するレッドシフトを観測した.また,分子の剛直性に起因して発光効率も向上した.水との混合溶液中における発光特性を調査したところ,ナノ凝集体の形成に伴う発光強度の上昇を観測した.ラセミ混合物の基本的な性質は明らかにできたため,次の段階として,光学分割の条件検討を進めているところである.
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Strategy for Future Research Activity |
TriBfCの分子構造を決定するため,X線結晶構造解析を行う.良溶媒と貧溶媒の組み合わせを種々検討し,単結晶化を目指す.TriCと比較することで,分子内の原子間距離やねじれ角,二面角などから分子の屈曲性について評価する.また,積層構造から分子の表裏性,または構造異性体が分子積層状態にどのような影響を与えるのかについて調査する. TriBfCの光学分割について引き続き進めていく.使用するキラルカラムや分離溶媒を検討し,エナンチオマーの分離を達成する.分離が困難な場合は,かさ高い置換基を本骨格に組み込むことで,分子反転にかかるエネルギーをより大きくし,分離を容易にした上で再検討していく.分離に成功したエナンチオマーは,円偏光二色性や円偏光発光に関するスペクトル測定を行い,波長の移動やコットン効果,旋光度,異方性因子について明らかにする.また,ラセミ化の半減期についても核磁気共鳴分光より明らかにする予定である. ベンゾ[g]クマリンとベンゾ[h]クマリンを三脚巴状骨格に組み込んだ新規誘導体(TriBgCおよびTriBhC)を合成する.これらはTriBfCの構造異性体にあたり,クマリン部位に縮環しているベンゼンの位置が異なる.従って,共役様式の違いに由来した特異な発光特性を示すことが期待される.TriCの合成経路を参考に,分子内Ullmannカップリング反応によって合成を達成する.得られた化合物の分子構造をX線結晶構造解析を用いて決定する.また,各種有機溶媒中における吸収・発光スペクトル測定を行い,凝集誘起発光を含めた光物理的性質について調査していく.得られた全ての誘導体をそれぞれ比較することで,本分子系における発光特性の系統的な評価を行う.
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Causes of Carryover |
当初参加を予定していた国内・国外の学会がコロナウイルスの影響によってオンライン開催となり,国内旅費・国外旅費にかかる支出が大幅に節約できたため。また、目的化合物の合成が首尾よく進み,条件検討などによる消耗品費(有機合成試薬)の支出が節約できたため. 令和4年度は,これら次年度使用額を合わせて,新規誘導体の合成に必要な合成試薬,スペクトル測定に必要な有機溶媒,解析に必要なソフトウェア,学術論文投稿に必要な英文校閲などに使用する予定である.
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Research Products
(2 results)