2021 Fiscal Year Research-status Report
高分子電解質の結晶化によって誘起される高強度化メカニズムの解明
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21K14679
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 慧 東京大学, 物性研究所, 特任助教 (20888276)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高強度高分子電解質 / 伸長誘起結晶化 / スライドリング効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、リチウムイオン二次電池の課題の一つである安全性・信頼性の向上を狙い、不燃・不揮発な高分子系電解質の強靭化を実現することを目的としている。 当初は高分子網目として均一高分子網目であるTetraPEG網目を使う予定だったが、一部計画を変更し、ポリロタキサンからなるスライドリング(SR)網目を用いることとした。 ポリロタキサンとは複数の環状分子を軸高分子が貫いた構造を指し、ポリエチレングリコール(PEG)がシクロデキストリン(CD)を貫いたものが代表例である。CD同士を架橋することで得られるSR網目は、延伸時に環状架橋点が高分子鎖状をスライドすることで、応力を均一に分散する。すなわち、延伸時に高い均一性を有する高分子網目である。 本研究では、SR網目とLi塩を組み合わせた高分子電解質を作製し、その機械強度及びイオン伝導性を調査した。非常に高い強靭性を示すことが明らかとなり、ヤング率が10MPa以上、破断倍率が1500%以上、破断応力が15MPa以上と、既報の高分子電解質と比べて遥かに高い機械強度を示すことが分かった。一方で、非延伸時にはPEG系の一般的な電解質と同等のイオン伝導性を示す。 延伸時の広角X線散乱像を取ったところ、PEG鎖の伸び切り結晶が形成されることが分かり、応力印可・除荷による可逆な結晶の形成・溶解が観測された。この結晶が破断を防ぐことで、高い破断強度に繋がっていることが分かった。この現象は水を溶媒とするハイドロゲルでは報告されているが、高分子電解質では初めての報告となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、イオン伝導性に代表される電解質としての性能を損なわずに高強度な高分子電解質を開発することにある。当初の予定では、網目構造を上手く制御し、結晶化が強靭化に繋がるような系を設計するのが2021年度の目標であった。 今年度はLi塩とSR網目からなる高分子電解質の開発を行い、イオン伝導性が既存材料と同程度かつ高強度な高分子電解質を開発することに成功している。そのため、その高強度化機構や網目構造を詳細に理解することで、塩の種類・高分子濃度・架橋剤濃度といったパラメータの最適化を行い、より強靭な材料の開発を行う段階に進むことができた。 現在の所、幅広い高分子濃度・架橋剤濃度において伸長誘起結晶化が観測され、伸長誘起結晶化が伴うサンプルについては破断強度の増大が見られており、両者に深い関連性があることが示唆されている。以上から、当初の予定以上に進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
強靭化機構の理解を目標にして研究を推進する。塩の種類を変え、Liよりも弱い溶媒和力を持った電解質材料を作製することで、機械強度や伸長誘起結晶化挙動がどのように変化するかを調査する。また、延伸時の網目構造の変化を観測するため、中性子散乱実験を行う。 並行して、塩の中での伸長誘起結晶の形成をMDシミュレーションで解析し、水系との比較によりその結晶化機構の差異を明らかにする。
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