2023 Fiscal Year Research-status Report
ザゼンソウの発熱形質が遺伝的多様性に与える影響の解明
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21K15149
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Research Institution | Kazusa DNA Research Institute |
Principal Investigator |
佐藤 光彦 公益財団法人かずさDNA研究所, 先端研究開発部, 研究員 (30783013)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 進化生態学 / 発熱植物 / 生態ニッチモデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
寒冷地で雪の残る時期から開花する発熱植物として現在唯一報告されているザゼンソウ属の発熱形質が寒冷適応に寄与しているとすると、ほとんど発熱しないヒメザゼンソウと比べて最終氷期の分布縮小や集団隔離の程度などに差異が生じると考えられる。その痕跡を現在の分布情報から検出するために、ザゼンソウとヒメザゼンソウを対象として機械学習アルゴリズムに基づくMaxEntを用いた生態ニッチモデリングによって生育適地の推定と遺伝的多様性の解析を実施した。現在の分布の決定に最も寄与する環境要因が両種とも冬期の降水量であり、積雪の重要度が示唆された。両種の現在の分布の重複の程度を評価するために、999回のランダムサンプリングから帰無分布を構築してNiche identity testとsymmetric background testによって検定したところ、ランダムと比べて有意に生育範囲が異なっており、近縁種間でニッチ分割が見られた。 現在よりも寒い最終氷期から現在よりも温かい完新世中期、現在との経時的な分布の変化を予測すると、ほとんど発熱しないヒメザゼンソウは最終氷期には南方に広く分布しており、暖かくなるにつれて分布の大きさを維持しながら北へ移動した。いっぽうで発熱するザゼンソウは最終氷期には広範に分布しており、暖かくなるにつれて分布が大きく変化することなく分布が縮小していることがわかった。日本各地のザゼンソウ、ヒメザゼンソウに対して次世代シーケンサーを用いた葉緑体のrbcLとpsbA-trnH領域の配列決定と、核のSNP情報をゲノムワイドに得られるMIG-seq法を実施した。葉緑体、核ともに発熱するザゼンソウでより遺伝的多様性が高いことが示され、両種の分布の変化パターンを支持する結果となった。 以上の成果は国際学術誌へ掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ここまでの成果が国際誌「Ecology and Evolution」へ掲載された。現在、発熱種と非発熱種でどのような領域に遺伝的多様性に差があるかの探索と自然選択の痕跡の検出のためのザゼンソウの新規ゲノム決定を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
発熱種と非発熱種でどのような領域に遺伝的多様性に差があるか、自然選択の痕跡が見られるかを検出するためにザゼンソウの新規ゲノムを決定した。ほとんどすべての遺伝子を決定できているため十分に利用可能であると考えられるが、現状では染色体レベルの精度までは達していない。特にヒメザゼンソウは2倍体であるのに大してザゼンソウは4倍体であるため、そのゲノム構造の差異は重要かもしれない。そこでゲノムの3D構造から近傍領域を特定するHi-Cを実施して染色体レベルを目指す。またヒメザゼンソウも新規にゲノムを決定する。
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Causes of Carryover |
申請以降の所属変更により、大型装置の購入や民間企業への受託の必要がなくなったため未使用便が生じた。1年間延長してさらなるデータの充実と成果報告を目指す。
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Research Products
(7 results)