2021 Fiscal Year Research-status Report
培養細胞を用いた胃粘膜発癌メカニズムと遺伝子変異・ピロリ菌感染相互作用の解明
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21K15972
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹内 康英 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (80646373)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 胃粘膜発癌 / 分子腫瘍学 / 遺伝子変異 / ドライバー遺伝子変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
胃粘膜が癌化する過程の詳細を明らかにするため、本研究では事前検討において統計学的な手法をもちいて検出した胃癌ドライバー遺伝子変異の候補が、実際の非腫瘍部胃粘膜上皮細胞においてどの様な分子生物学的変化をもたらすのか、その詳細を解明することと目的としていた。しかしながら後述の理由によって2021年度中に新規胃粘膜組織片が順調に収集できなかったため、収集体制の再整備を図りながら、既収集サンプルのデータを再解析し、胃癌ドライバー遺伝子変異の候補の統計学的な有意性を証明することに努めた。具体的には正常なヒト胃粘膜上皮集塊(n=130)と、それらから単離した胃腺窩(n=50)に対して網羅的遺伝子変異解析を行い、ドライバー遺伝子変異の検索と、胃粘膜における遺伝子変異蓄積・クローン拡大の詳細を検討した。上皮集塊の検討結果からは事前検討と同様、既知の胃癌ドライバー遺伝子変異が有意なものとして検出され、さらに胃癌ドライバー遺伝子として知られている一部の遺伝子は癌部と比較して非癌部で有意に高い頻度で検出された。非癌部におけるクローン拡大は、癌部におけるクローン拡大とは異なった分子生物学的機序でもたらされている可能性が確認された。胃腺窩の検討では非腸上皮化生領域の胃粘膜で年間約0.4個/エクソーム、腸上皮化生領域の胃粘膜で約1.1個/エクソームの遺伝子変異蓄積が確認された。腸上皮化生と胃癌発症には古くから疫学的な相関が示されていたが、その分子生物学的機序の一端が証明されたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、研究計画書作成時に期待されていたサンプル取得経路(患者同意書取得、検体搬送など)の整備に大幅な遅延がもたらされたため、事前検討に必要なヒト胃粘膜の収集が困難な状態が続いた。現状では感染拡大が落ち着いたこと、上記経路の整備が完了したことなどから、新規サンプル収集が容易となっており、大幅な遅延はあるものの当初の予定通りの研究をすすめていくことを計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画書に記載したとおり、下記の研究1,2を遂行していく。 研究1:複数患者から胃粘膜を採取し、複数のヒト胃粘膜上皮由来培養細胞株(オルガノイドなど)を樹立する。培養株のDNAをシーケンスし、遺伝子変異の有無を判定する。遺伝子変異の有無に応じた培養細胞の形態学的な特徴の差異を、HE染色標本やPeriodic acid-Schiff反応を用いた細胞質内外の粘液の染色、各種免疫組織化学的染色によって明らかにする。非腫瘍部だけでなく癌部や良性腫瘍に対しても同様の操作を行う。 研究2:研究1で作成した培養細胞ライブラリーのうち、変異陰性の株を複数クローンに分け、レンチウイルスなどを用いてドライバー遺伝子変異を導入する。各種細胞染色法を実施して、遺伝子変異の導入によって細胞形質に生じる変化を明らかにする。遺伝子変異陽性・陰性群、コントロール群に対してピロリ菌を感染させ、慢性胃炎状態を模した培養系を作成する。遺伝子変異やピロリ菌感染の陽性・陰性群が増殖に与える影響を細胞増殖速度の定量で明らかにする。細胞内増殖シグナル活性を反映するCD44などのウェスタンブロッティングや定量PCRで増殖活性の変化を証明すし、RNAマイクロアレイを用いて細胞質内シグナリングの変化を定量・定性する。これらの結果を総合的に解析し、各種遺伝子変異やピロリ菌感染が胃粘膜上皮の増殖活性にどの様な影響を与え、最終的な癌化に寄与するかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、研究計画書作成時に期待されていたサンプル取得経路(患者同意書取得、検体搬送など)の整備に大幅な遅延がもたらされた。そのため、当初予定していた事前条件検討や予備実験、ならびに本実験に必要なヒト胃粘膜の収集が困難な状態が続き、事前に取得した遺伝子変異データの解析以上の実験操作を行うことができない時期が長時間続いた。そのため細胞培養などに用いる実験試薬や各種消耗品に対するコストが発生せず、次年度使用額が生じることとなった。現時点で感染拡大が落ち着いており、また新型コロナウイルス感染の流行に影響されにくいサンプル収集体制の整備が完了したため、新規サンプル収集が可能となっている。当初の予定から大幅な遅延はあるものの、予定通りの研究をすすめていくことが可能と判断している。
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Research Products
(4 results)