2021 Fiscal Year Research-status Report
生活習慣に起因する腸管バリア機能の破綻が自己免疫性膵炎の発症に果たす役割の解明
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21K15987
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
三長 孝輔 近畿大学, 医学部, 講師 (30793814)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自己免疫性膵炎 / IgG4関連疾患 / 生活習慣病 / 腸内細菌叢 / 腸管バリア機能 / Dysbiosis / 形質細胞様樹状細胞 / Leaky Gut Syndrome |
Outline of Annual Research Achievements |
飲酒・高脂肪食などの生活習慣は、腸管バリア機能の低下とdysbiosisを誘導し、leaky gut syndromeと呼ばれる病態を通じて、生活習慣病を引き起こすことが知られている。一方で、われわれは、dysbiosisがIgG4関連疾患の発症に重要な役割を果たしていることを過去の研究で見出しており、これらの生活習慣の乱れがIgG4関連疾患の発症に及ぼす影響を疾患モデルマウスを用いて検討した。 MRL/MpJマウスにpoly (I:C)を反復投与することでIgG4関連疾患(自己免疫性膵炎・唾液腺炎)を誘導した。高脂肪飼料を摂取した群(HFD群)では標準飼料を摂取した群(ND群)に比べて膵炎が増悪することが病理組織学的評価で明らかとなった。フローサイトメトリーによる膵臓に浸潤する免疫細胞の解析により、HFD群では、形質細胞様樹状細胞(pDC)の浸潤が増加しており、炎症性サイトカインであるIFN-α・IL-33の発現が増加していることが判明した。一方で、IgG4関連疾患の膵臓以外の好発臓器である唾液腺においては、HFD群において唾液腺炎の増悪は認められず、pDCやIFN-α・IL-33の増加も伴わなかった。高脂肪食摂取が肝臓に及ぼす影響を検討した結果、pDCやIFN-α・IL-33に変化は認めなかったが、肝臓の脂質定量においてHFD群では中性脂肪の含有量が有意に増加していた。 これらの結果から、IgG4関連疾患モデルマウスにおいて、高脂肪食の摂取により膵炎が増悪するが、唾液腺炎には影響しないことが明らかとなった。高脂肪食の摂取により誘導された脂肪肝の影響で、dysbiosisや腸管バリア機能の破綻が起こり、病的pDCが炎症性サイトカインIFN-α・IL-33を過剰に産生することにより膵炎を増悪させるといった「肝臓-腸管-膵臓免疫ネットワーク」が機能している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究により、高脂肪食の摂取がマウスIgG4関連疾患の発症に及ぼす影響を、疾患モデルマウスの膵臓・唾液腺を評価することにより、高脂肪食の摂取により膵炎は増悪するが、唾液腺炎には影響しないことが明らかとなり、高脂肪食摂取により膵臓におけるpDC-IFN-α, IL-33による膵炎・線維化の経路が促進されていることが判明した。また、高脂肪食の摂取により肝臓に中性脂肪が沈着し、脂肪肝が誘導されることも確認できており、脂肪肝が自己免疫性膵炎の増悪に関与している可能性を考えているが、そのメカニズムは解明できていない。今年度の研究で、高脂肪食の摂取が、膵臓や唾液腺炎、肝臓に及ぼす影響に関しては一定の研究成果が得られたが、高脂肪食摂取が腸内細菌叢や腸管バリア機能に及ぼす影響に関する検討は行えていないため、「やや遅れている」、と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究結果から、高脂肪食の摂取により脂肪肝が誘導され、脂肪肝が、膵臓における自己免疫性膵炎の増悪に影響している可能性が示唆されたが、そのメカニズムに関しては解明できていない。過去の研究で腸内細菌叢の乱れが自己免疫性膵炎の発症に関与していることを見出していることから、脂肪肝による腸内細菌叢の変化や腸管バリア機能の低下が膵炎の増悪に影響している可能性が考えられる。この仮説を証明するために、HFD群とND群における腸内細菌叢の比較をマウス便検体を用いた次世代シークエンスにより解析する。また、腸管バリア機能の維持に重要なタイトジャンクション蛋白質(Claudin、Occludin)をPCR定量し、自己免疫性膵炎の発症に及ぼす効果を検討する、さらにClaudinあるいはOccludin欠損MRL/MpJマウスを作成し、poly(I:C)投与を行った際に、自己免疫性膵炎の発症がどのように制御されるのかについて検討を行う。この実験により、タイトジャンクションの機能が自己免疫性膵炎の発症に及ぼす効果を、腸管バリア機能とpDCs の産生するIFN-α・IL-33が誘導する免疫反応の観点から解明する。 さらに、生活習慣と腸管バリア機能が自己免疫性膵炎の発症に及ぼす効果を明らかにするために、近畿大学病院のデータベースを用いて、病歴の調査、飲酒・高脂肪食などの生活習慣と臨床病型の関係を明らかにする。血液検査での肝酵素値や画像上の脂肪肝の有無、糖尿病の合併、サルコペニアの評価等を行い、生活習慣が自己免疫性膵炎の発症や治療効果に与える影響を解析する。腸内細菌叢の解析では、患者便検体を用いて、動物実験で同定した病的腸内細菌の多寡を次世代シークエンサーで解析し、自己免疫性膵炎の発症に関与する菌種の同定を目指したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染蔓延により学会がWeb開催となったことにより旅費が発生しなかったこと、および、マウスの便検体の解析を次年度に持ち越したことにより、次年度使用が生じた。
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Research Products
(9 results)