2021 Fiscal Year Research-status Report
Background and antecedents of teachers' need-supportive teaching behaviour in physical education
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21K17626
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
寺岡 英晋 慶應義塾大学, 体育研究所(日吉), 助教 (60874493)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 体育 / 中学校 / 小学校 / 教師行動 / 自己決定理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度においては、自己決定理論に基づいた教師の欲求支援行動と個人要因との関係を量的に調査することを目的とした。体育授業で求められるべき教師行動を測定する尺度としては日本語版のSituations-in-School-PE(SIS-PE)を用いた。SIS-PEは、教師の欲求支援行動として「自律性支援」と「構造」、欲求阻害行動として「統制」と「放任」の計4つの下位尺度で構成されている。教師の個人要因を規定する変数としては、多側面ワークモチベーション尺度、一般的因果志向性尺度、基本的心理欲求の充足・不満尺度の日本語版を用いた。調査は小学校教師及び中学校体育教師を対象としてWebアンケートで実施した。ランダムに抽出した東京都の公立小学校及び中学校の学校長宛てに研究参加協力を依頼し、これまでに小学校教師31名と中学校体育教師32名から調査協力への同意を得た。データ分析は、SIS-PEの各下位尺度を従属変数、各個人要因の変数を独立変数とした回帰分析を行った。調査の結果、小学校教師においては、教師の自律志向性は自律性支援行動を高めると同時に、統制行動と放任行動を抑制している可能性を示した。また、有能さへの欲求不満が統制行動と有意な関連があることを示した。この結果は、自律性と職務における有能感を高めることが欲求支援行動を喚起するために重要であることが考えられた。中学校体育教師においては、自律志向性が自律性支援行動と構造行動を高めることを示し、放任行動を抑制している可能性を示した。ワークモチベーションとの関連では、協力志向的モチベーションと達成志向的モチベーションが構造行動との有意な関連を示した。さらに、関係性への欲求不満が教師の放任行動を引き起こしている可能性を示した。この結果は、中学校体育教師にとって、自律性と職場における良好な関係性が、求められる教師行動に結実する可能性を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、体育分野における子どもたちの主体性や運動に対する意欲を高めるための要因として、自己決定理論に基づいた欲求支援行動に着目し、その教師行動を引き起こす背景要因について検討することを目的としている。この目的の達成のため、まず取り組んだことは、教師の欲求支援行動を測定するための尺度の作成であった。すでに海外の研究においてSituations-in-School-PE(SIS-PE)が教師の欲求支援行動を測定するための尺度として使われていたため、SIS-PEの日本語版の作成に取り組んだ。手続きとしては、まず、原著者らからSIS-PEの邦訳について承諾を得た後、翻訳の専門家による邦訳を行った。次に、スポーツ教育学を専門とする大学教員4名が原文と比較をしながら邦訳された項目の確認と修正を行った後、別の翻訳の専門家による逆翻訳を行った。その後、原著者らによる確認を受け、必要に応じて邦訳を修正した。修正箇所の逆翻訳を再度行い、最終的に原著者らから了承が得られた。しかしながら、データ収集において、当初の計画では初年度内に小学校教師200名および中学校教師200名分のデータを収集する計画であったが、実際にはそれぞれ30名程度に留まったため、現在までの達成度は「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は対象者を東京都の公立学校に絞り調査を実施していたが、来年度は全国の学校に対象を広げ、量的調査のスケールアップを図りたい。スポーツ教育学分野の研究者や全国の県区市教育委員会を通して小学校教師および中学校体育教師(研究発表会等において研究発表もしくは公開授業を実施したことのある教師など)を斡旋してもらい、協力を依頼する。 また、量的調査のフォローアップとして、体育授業の観察と教師の自己省察インタビューを行う計画である。量的調査に参加した教師全員にフォローアップ調査の参加の依頼を行い、同意が得られた教師を対象とする。目標とするサンプル数は各学校段階で10名ずつの計20名としている。この局面では体育授業の撮影を行うが、雨天時の影響を考慮し室内の体育館で行われる体育授業を対象とする。一台のビデオカメラで常に教師の行動が録画されるように教師を追跡し、別の一台で授業全体を録画する。同時に、教師にワイヤレスマイクロフォンを装着してもらい、教師が発した音声を映像と同期させながら記録する。撮影した授業があった日の放課後もしくは翌日に録画したビデオを教師に見てもらい、自身の教師行動について、なぜこのような行動をとったのか、その行動の背景について質問する。撮影する授業は一律して単元の中間あたりの1コマを対象とする。日程調整ができた学校から順次訪問を開始する計画で2023年12月まで継続したいと考えている。インタビューのデータは主題分析法により実際の授業で起きた教師行動を裏付ける教師の教育観や行動に至った理由を定性的に解明する。
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Causes of Carryover |
アンケートの回答者に対する謝金を支出するため計上していたが、当初の計画よりも回答者を集めることができなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額分は、データ収集にあたり、本来想定していた関東近郊地域よりさらに広げた全国の学校へ訪問することを計画しているため、そのための交通費と宿泊費に計上する。また、研究成果の社会への還元に必要な支出として国内学会(日本体育・スポーツ・健康学会:順天堂大学)と国際学会(AIESEP:オーストラリア)への参加のための旅費として使用予定である。
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